はい。来ました他の皆さんの設定。
というより、他の皆さんとジズさんとの出会い方設定。ほぼそのまま話できてるのでそのまんま出します。

まずはメメ!
               ↓


天の御使い

「………またか」
 手帖を開いて溜息をついた。
 今日運ぶ魂が記載されている仕事手帖。
 その欄の一番下に、黒く塗り潰された名前がある。
 これは本来運ぶべき魂が、何かの制約や事故によって取り消された事を示す。この業界では、極稀に現れるイレギュラーと呼ばれている。因みにただの浮幽霊や地縛霊はイレギュラーにはならない。彼らは彼らの未練が果たされれば勝手に成仏するので、それまで数にいれていたら手帖はイレギュラーで真っ黒になってしまう。
 でも僕の手帖に出現するイレギュラーは、特殊としか言えなかった。
 だって、“極稀に”現れる筈のイレギュラーは、ここ十数年の間に、決まった日に毎年手帖に顕れるんだ。

 毎年、“9月19日”に――

 この日は、この魂にとって何があった日なんだろう。
 名前は塗り潰されているから、何て名前なのか解らない。でも僕は気になって仕方なかった。
 このイレギュラーはどんな人なのか……

 だからその年も、頭の片隅でイレギュラーの事を考えながら、手帖にあった魂を全て運んだ。
 普段はランプ代わりの星の杖を鎌に変化させ、ライフコードを切って。
 これが僕の仕事だから、仕方ない。
 最後の魂を連れていって、帰り道。そろそろ子供の姿に戻ろうかなと思っていた時だった。

 僕は偶然、彼を見つけた。

 星が綺麗な夜空の中で、一人浮かんでいた。
 指を組んで目を閉じて、まるで星に願いをかけているみたいだった。
 霊だ。
 黒い髪に黒い服。透き通るような淡緑色の肌に、白の半仮面。
 遠目からは男か女か迷うくらい、とても綺麗な人だった。

「……こんばんは」
 近くまで飛んでいって挨拶した。僕を見たその人は、天の使いだとすぐ解ったようで、丁寧に一礼する。
〈これはこれは……こんばんは。天の御使い様〉
 あ、男の人だった。声はハスキーではあるけど低すぎず高すぎず……テノールよりはアルトかな。肩幅や腰の細さで男性だと判断した。かなり細身だけど。まぁ胸ないし男だろう。男装しているのでなければ。
「……何か願い事?」
 尋ねると、彼は頷いて微笑んだ。
 僕は理解していた。
 最初に見た時から、彼が生前人を殺めた罪人である事を。
 そして、悪魔との契約という大罪を犯した、地獄に堕ちる事を決定された魂である事を。
 でも、彼から邪気は全く感じられなかった。それが不思議だ。
「…………良かったら、あの世に連れていこうか? 君は間違った道を進んだ魂だね。地獄逝きは決定してるけど、これ以上現世に留まっていても、その罪は重みを増すばかりだよ。だったら」
〈いいえ。私はまだ、世界を見る事をやめられない。そういう契約ですから。私はまだ、過去の過ちを自分で見続けなければならないのです〉
 彼は悲しげに笑った。
「……でも、君自身の魂にとって一番いいのは、然るべき場所で然るべき時を過ごす事だよ。それはここじゃない」
 真っ直ぐ見つめてそう言ったら、彼は一つ頷いて目を伏せた。
〈ええそうでしょうとも。それに、元来私がいるべき“世界”も、ここではありませんでしたしね〉
「!」
〈私は元々、このポップンワールドの住人ではなく、現実世界の人間でしたから〉
 僕と、同じ?
 元は現実世界から送り込まれた、異邦人。
 という事は、
「……MZDにスカウトされてこっちに?」
〈ええ。ほぼ強制的に、でしたけど〉
「あの馬鹿神はいつもそうだから」
〈ふふ。ですが、こちらにきて十数年経ってみて、やはり別世界というものはなかなか面白いと思いましたよ〉
 十数年……
「……へえ。それは良かった」
〈ええ。どこの世界でも、同じものは同じなんですね……例えば、この星空も……時代の流れ方も、人の業も〉
 途端、彼の瞳は冷たく悲しくなった。彼の魂の根底に繋がるような気配。
「……さっき、君は何を願っていたの?」
〈願い事は、他人に言うと叶わないと言いますからねぇ〉
「それなら問題ないよ。僕はこれでも“天”の使いだから。むしろそれを叶える側だよ。一応ね」
 そういう仕事はこないけど。
〈なるほど〉
「何を願っていたの?」

〈……ずっと昔の今日、私が死なせてしまった大切な人の、魂の安寧を〉

 まさか――
「……今日? ……9月19日に?」
〈ええ。この日は私の死んだ日でもありますが…………でもそれ以上に大切な人が亡くなった日、という方が大きいので。それに、その人は私が……〉
 そこで口ごもり、苦しげに眉を顰めた。
 それ以上は聞いてはいけない話なんだと悟った。
「………迷える魂。君、名前は何ていうの?」
〈……Zizzと名乗っております〉
 顔を上げてそう言う彼に、
「ジズ、か。僕はメメ。君と同じ、現実世界から来た異邦人だよ」
 そう言って笑ったら、とても驚いた顔をした。
〈天の使いが異世界から招かれる事があるのですね〉
「うん。僕は特例みたいなもの。色々と珍しい要素盛りだくさんだからね。宜しくジズ。君の事を捜していたんだ」
〈……え?〉

 悪魔との契約を結び、この世に留まる霊。
 その彼が本来昇天する筈だったのが9月19日。
 そして彼がこちらの世界に来たのが十数年前。

 これらの符号点で、確信した。

「君だったんだね。僕の手帖に毎年顕れる“イレギュラー”は」

 彼は首を傾げたけど、細かい話は後だ。
「ねぇ、これからもこっちの世界で住むんでしょ? なら僕と友達になろ」
〈メメさん……〉
「実体化できる? 今日の仕事はもう終わったから、僕の家においでよ。お茶出すからさ!」
〈しかし、天の御使いともあろうお方が、私のような霊とは〉
「関係ないんだそんな事」
 言い切ってやった。
「だって僕はジズをずっと捜してた。それで今会えた。だったら仲良くしたいよ。それだけなんだから」
 彼は信じられないといった表情を浮かべて、その後、また優しげに微笑んだ。
「ね、おいでよ! 色々話したい事もあるんだ!」
 言って手を伸ばす。僕は冥府の使者だから、幽体化した状態の霊とも触れあえる。これ役得だね。流石にお茶を飲むのは実体化してもらわないといけないだろうけど、とりあえず、
〈はい。では御言葉に甘えまして〉
 こうやって手を繋げるだけで、充分だよね。

――――――――――――――

そして親友の仲へ!
9月19日は、公式でZizzさんの誕生日。つまりうちの設定では命日です(*´∀`)

今はめっちゃ仲良しですねvv

じゃ、次、スマイル行きます。
過去設定+出会い設定

             ↓

ヒトガタ遊戯 - 友達遊戯


 僕の母さんは、僕を生んですぐ死んだらしい。父さんと一緒だけど、仕事が忙しくていつも家にいない。
 だから幼い僕の遊び相手は、父さんが買ってきてくれる人形だけだった。

 でもそれは気分のいいものではなかったんだ。
 人形は僕が何を言っても応えてくれない。動いてくれない。
 こんな時、母さんがいたら一緒に遊んでくれたんだろうけど。
 ずっと遠くに住んでいるらしい“いとこ”は、母さんの妹が母親らしい。そっちは両親とも健在だとか。前に父さんが言っていた。その“いとこ”は僕とよく似てる、緑の髪の男の子だって。
 会った事ないけど、母さんの妹がその子の母親なら……その人は、僕の母さんとよく似ている人なんだろうか。会ったところで解らないだろうけど。

 僕はずっと人形で遊ぶ。
 兵隊。狩人、カウボーイ……
 何故か父さんが買ってくるのは人型のものばかりで、恐竜や動物のおもちゃは買ってこなかった。
 僕にはそれが少し嫌だった。
 人なら、喋るのに、形だけ人で、喋ってくれない。動いてくれない。

 だから僕は人形を壊していた。
 手首を、足首をもいで。
 肘や膝の関節を外して。
 首と頭を折って。
 気付けばおもちゃ箱はバラバラになった人形の残骸で一杯になった。

 だって、『痛い』って言わないもの。
 人の痛みなんて知らない。
 ねえ母さん、どうして教えてくれなかったの?
 痛い、って、何?
 愛してよ
 父さんはいつも帰ってこない
 誰も遊んでくれないんだ
 痛いって何?
 愛って何?
 どうして教えてくれないまま逝ってしまったの母さん――――

 少し大きくなった僕は、動物を虐待するようになった。
 最初は蟻だった。
 次はバッタ。
 踏んで、足をもいで、首をもいで――
 次は鼠。
 次はリス。
 次は野良猫。
 動物は鳴いたけど、どうしてそんなに鳴くのか解らなくて。
 手が真っ赤になっても、その意味をよく解っていなかった。そういえば僕は泣いた記憶がない。
 ねえ母さん。
 この真っ赤な血と同じように、涙も温かいものなの?


 もっと大きくなって、世間の常識というやつが少し解ってきた。僕がやっている事を続けていたら、その内捕まってしまうらしい。動物愛護、ってやつ。
 気まぐれで父さんがギターを買ってきたのがきっかけで、僕は音楽ができるようになった。楽しいと思った。動物と、人形虐待の趣味よりはいい暇つぶしになると思った。

 相変わらず人形を見ると壊したくなったけど。

 テレビアニメのヒーローとかは好きなんだ。
 かっこいいなぁ、って思う。
 でもそれがテレビから飛び出して、人形になると途端に嫌になった。
 父さんは僕がアニメが好きだと知って、好意でその人形を買ってきたりもしたけど、それはとても嫌だった。
 父さんは夜遅く帰って、朝早く出て、何日か帰ってこなくて、また夜遅く帰ってくる。
 だから僕とは殆ど顔を合わせられない。
 朝起きると、ソファーの上に人形が手紙と一緒においてある。
 また数日帰ってこれないから、これで遊んでいてくれと。
 僕はそれを抱いて部屋にいって、暫く眺めて、話しかけて、応えがなくて、壊した。
 その繰り返しだった。

 どこかの吸血鬼がバンドメンバーを募集しているって言うから、暇つぶしで参加してみようと思ってた、11歳のある日。

 まるで幽霊屋敷、っていうような建物をみつけた。
 古い洋館だ。
 塀にも壁にも亀裂が走っていて、柵は錆びてボロボロ。蔦がはびこってるなかを、蜘蛛とか蜥蜴とかが動いてる。
 一人で家にいるのもつまらなくて、ギターを担いで散歩していたらたまたま見つけた変な屋敷。
 不気味だけど、だからこそ気になった。このメルヘンランドにこんなものがあったなんて知らなかった。
 誰も住んでいない空き家なら、僕の隠れ家にしようと思った。きっと嫌なものから遮断してくれるに違いない。

 塀を乗り越えて、柵をよじ登って、壁伝いに進んでみると割れた窓を見つけた。やっぱり空き家だ。無理に入ったら割れたガラスがひっかか りそうだったから、その辺に落ちてた石を拾って、残ってるガラスを全部割って落とす。安全を確認しながらよじ登り、中に入った。

「――――――え?」

 ボロボロな部屋を想像していた僕は、暫く呆然とした。
 何故なら僕が降りたその部屋は、綺麗に整理されて埃一つ落ちていない、何かの作業部屋みたいだった。
 意味が解らなくて混乱する中、そういえば今割った窓から風が入ってこない事に気付いた。
 おかしいと思って振り返ったら、そこには割られた窓なんかなくて、あるのは見事なカーテンが付いた、よく磨かれた立派な窓だった。
 夢でも見ているんだと思った。
 ガラスの破片だってどこにもない。僕は今どこにいる?
 辺りを見回すと、そこが何の作業場か解った。それは僕が大嫌いな作業場だった。

 人形を作る部屋だ。

 壁掛けからパーツが下がっている。工具が揃えてテーブルに置いてある。小さな服がトルソーにかかっている。完成した人形が棚に沢山座っている。
 そして手前にある木箱の中に、様々な箇所が壊れた人形が沢山入っていた。

 あの衝動が湧き上がる。
 嫌だ。
 人形なんか嫌だ。
 人の形をした死んだガラクタなんか見たくない。
 僕は棚に並んでいる、綺麗な服を着た男の子の人形に手を伸ばした。


  「その子が気に入りましたか?」


 ビクリと飛び上がって、大慌てでその声へ向く。
 そこには、シャツの上からエプロンをかけた、黒髪で淡緑色の肌で、右顔に白い半分の仮面をつけた男の人が、誰もいなかった筈の椅子に腰掛けて笑っていた。
「ぇ……え?」
「どうぞ。御手にとって頂いて結構ですよ」
 優しく笑ってそう言う人。
 僕は伸ばしかけていた手をひっこめる。まさか壊す為に掴もうとしていたなんて言えない。
 というか、この人誰?
 部屋に入った時は、その椅子には誰も座っていなかったのに。
 ドアだってしまってた。開閉の音も聞こえなかった。なのにこの人は座っている。当たり前みたいに。
「い……いつから居たの?」
 なんとか声が震えないように気をつけながら尋ねる。
「最初からです」
「え?」
 首を傾げる。
「貴方がその窓からいらっしゃる前から、私はここに居ましたよ」
 じゃあ……
「………僕と、同族の人?」
「え?」
 今度はむこうが首を傾げた。
 だって、最初からそこにいたのに気付かなかった、って事は……
「僕と同じ、透明人間?」
 でも、彼は微笑んで首を横に振った。
「いいえ。残念ながらそうではありませんよ」
「………誰? 何なの?」
 警戒する。そりゃ、入ってきたのは僕の方だけど、なんだかこの人は普通の人じゃないように思えた。
「申し遅れました。私、この家の主のジズと申します」
 彼は静かに立ち上がって、僕にむけて一礼する。そしてエプロンを外してポールにかけて、代わりにそこにかかっていた黒のジャケットに袖を通した。すごく綺麗な紳士服だった。
 紳士さん? 貴族?
 でも、エプロンしてたし、この部屋だし、人形師?
「………誰もいない幽霊屋敷だと思ったのに………一体何なの?」
 そう言う僕にまた微笑んで、
「ああ、半分正解で半分ハズレですね」
「は? どういう事なのさ」
「ここは、確かに幽霊屋敷ですよ。そして私はこの家に住んでいる幽霊です。お解りになりますか?」
 あっけにとられた。
 そっか。幽霊屋敷で合ってたんだ。ここはメルヘンランドだから、僕みたいな妖怪とか、お化けも沢山いるし、天使もいるし、妖精もいるし。幽霊が幽霊屋敷に住んでて悪い事はないよね。というか、これって不法侵入って事になるのかな。
「か、勝手に入ったのは悪かったけど、外と中じゃ全然違いすぎるのも悪いよ! 誰もいないと思ったから入ったんだよ! 一体これどうなってんの!?」
 一気にそう言ったけど、彼は全然動揺しなくて。
「すみません。外装をああしておけば、来訪者はなかなかいないので、本物の幽霊として都合がいいのですよ。外側は全て幻です」
「……まやかし?」
 オウム返しに聞き返す。
「はい。これでも多少の魔術は使えるので、外見は廃墟に見えるよう細工しているんです。貴方は割れた窓を更に割って入ってきたおつもりなのでしょうが、実際には最初から割れた窓などなかったのです。外側から割って入ってきたら、内側はただ窓が開く。そして閉まって元通りです。貴方が今その窓から外に出たら、先程と変わらない、割れた窓を目にすると思いますよ。その窓には外側から直接触れる事はできないので、傷もつかないし割れもしないのです」
 なんか、凄い事言ってる。
「……つまり、魔法じかけの幽霊屋敷、って事?」
「簡単にまとめるとそうなりますね」
 どこから驚けばいいんだろう。
いいや。とりあえず、住んでる人がいるなら帰ろう。ここは僕の嫌いな場所だし。
「おや、御手に取ってご覧にならないので?」
 窓を開けようと踵を返した僕に、幽霊紳士のジズがまた声をかける。
「………いいんだ。僕、人形を見てると……」
「見ていると?」
 口ごもる。この場で本音を言うのは流石に失礼だと思った。
「………人形作ってるの?」
 そのまま無視して帰るのも気まずくなっったから話を変えようと、また振り返って話題をふると、彼は頷いた。
「はい。私は人形師のはしくれです」
「ふぅん……ここにあるの、全部?」
「ええ。棚に並んでいる物は。ああ、でもそちらの……」
 手前にあった木箱を指さす。
「怪我をしている子達は私が作った訳ではなく、これから治してあげるところです」
「………けがぁ?」
 その言い方に面食らった。
 だって、人形じゃん。怪我って……普通故障とか欠陥とか言うんじゃないの?
「はい。怪我人ですよ。今はちょっと眠ってもらっています」
 ますます面食らった。なんかイライラしてくる。ただでさえ人形に囲まれて気分悪いのに。
「………何その言い方。まるで人形が生きてるみたいな」
「はい。生きていますよ」
 今度は唖然とした。
「………何、言ってんの?」
 信じられない。馬鹿にしてるのか。
「だって、これ人形じゃん!」
 思わず声を荒げる。

「僕がどんなに話しかけても、遊んでも、ちっとも返事してくれない! 動いてくれない!! 人の形してるくせに中身は死んでるガラクタじゃないか!! だから嫌いなんだ!! だから見てるだけで嫌になる!!! みんな壊してやりたくなるんだ!!!」

 叫んで、木箱を蹴りつけた。あっけなく倒れて、壊れたガラクタを床にちりばめる。
 肩で息をしながらそれを見つめる僕を、ジズはただじっと見つめてから、
「……………寂しかったのですね」
「!!」
 そう囁くように言ってからしゃがむと、倒れた木箱を起こして、散らばったガラクタを拾い集めた。
「……貴方の事を、何とお呼びすればいいのでしょうか? 透明人間の坊や」
 そう微笑みかけてきたのに驚いて、ぱちぱちと瞬きをする。
「お名前は?」
 尋ねる彼に、
「…………す、スマイル」
 小さく呟いて応える。
「そう、スマイル君ですね」
 笑いながら、彼は木箱に戻したガラクタの中から、腕が外れかかっているものを取り上げて胸に抱いた。
「あのね、人形は、実はみぃんな生きているんですよ」
 そんな事を言い出した。
「なっ」
「立ち話も何ですから、こちらへどうぞ」
 椅子を勧められて、何とはなしに座ってみた。彼の話が少し気になったから。
「私は術を使えるので、自ら歌って踊る“生き人形”を作る事ができます。ですがそんな術をかけなくても、人形という物は皆、最初から生きているのです」
「……どういう事なの?」
 尋ねる僕に、彼は続けた。

「人形は、子供と遊ぶ事を生き甲斐に、生きているんです。ただ、私のような特殊な存在を除いて、人形の“声”を聞く事ができる者は少ないでしょう。そして、人形が自ら動くようになるには、とてもとても大きな力が必要です。人で例えるなら、何万トンもの岩を担いで走れるくらいの。“心の力”が必要なんです。これは人形達が生まれながらにもっている制約によるもの。それほどの“力”となる心を成長させなければ動いてはいけない、と、簡単に言うとそうなります。中には心を成長させて、自ら動けるようになる人形もいますが、それはごく少数。だから、自分から話せず、動けない彼らを“生きている”と認識する人は多くありません。君のように。
 でもね、本当はみんな生きているのですよ。子供と遊んで、笑顔が見たい、ただその目標のために。私は、傷付いて捨てられた子を引き取って手当したり、新しい子を作って送り出したりする人形師です。この木箱の子達は、小学校や幼稚園で怪我をした子達です。この子達はちゃんと治して、また元の場所に戻って子供達と遊べるようにしてあげますよ」
 
 穏やかに、そう言った。
「私は人形達の心の成長を、ほんの少しお手伝いしたり、生き甲斐を応援する人形師です」
「…………生きてる?」
「ええ。例えば、この子も」
 胸に抱いた人形の頭を撫でる。
 それは布製の、女の子の人形だった。外れかかった腕の付け根から綿が出ている。
「今この子は眠っている。だから、少しだけ起きてもらいましょうか」
 そう言った直後、ふわりと人形が浮いた。
「わ!?」
 そして僕の足下に降りて、黒い毛糸の目で見上げて、腕をぱたぱたと振った。
 遊ぼう、遊ぼう、って言ってるみたいに。
 心の力を、ジズが手伝った。
「こらこら、そんなに腕を振ると綿が零れますよ」
 苦笑するジズは、今度は驚いて僕を見た。
 僕は両手でそっと人形を抱き上げて、泣いていた。
 ああやっぱり、涙って温かいんだね。
 胸に抱いて、声をあげて泣いた。

 そうだ。僕はただ寂しかったんだ。
 人形が嫌いなんじゃなくて。
 一緒に笑ってくれない、応えてくれない、動いてくれない人形が悲しかったんだ。
 母さんがいなくて、寂しかったんだ。
 一緒に、遊んでくれる友達がいなくて、寂しかったんだ。

「じず……ありが、とう」
 涙が収まってからそう言ったら、微笑んで頷いた。
「……さて、折角ですから、他のみんなにも起きてもらいましょうか。しかし、怪我人ばかり、というのも少々問題がありますので、私が作った子達に……」
 言って、軽く手を二回叩いた。
「さ、みんな起きなさい。お客様ですよ」
 そしたら、棚に並んでいた人形達がふわふわと下に降りて、みんなが僕を見上げて遊びたそうに身振りをした。
 さっき僕が掴もうとした男の子も。
 ふわふわのくまのぬいぐるみも。
 綺麗なドレスの女の子も。
 そして、

「ジズ様、お客様でスか?」
「マ! 大変! お茶ヲ淹れナクてハ!!」
「ジズ様ー! その子だぁれ? 壱ノ妙も遊ぶー!!」

 今度は喋る人形が……男女の小さな人形と、僕と同じくらいの身長の日本人形の女の子が賑やかに入ってきて、
「あはは、甘い物はお好きですか? スマイル君」
 尋ねるジズに、満面の笑みで頷いた。
「ああ、やはり、笑顔がとても素敵ですね」
 そう言うジズに、そう言えばお愛想以外で笑った事ってなかったかもしれないと気付いた。“スマイル”って名前なのに。
「では、みんなでリビングに行きましょうか。丁度美味しいケーキもあるんですよ」
 彼は笑って、僕の手を引いた。
「あ、ジズ、お願いが、あるんだけど」
「何でしょう?」
「……うちに、一杯、僕が怪我させた子がいるの……治してくれる?」
「………ええ。勿論」
 嬉しそうに笑うジズ。僕も嬉しくて、笑った。

 その日僕は、一番の親友と出会ったんだ。




「ちょっとユーリ!!!!! 僕のギャンブラーフィギュア勝手に触ったでしょ!!!」
「知らんと言ったら知らん!!!!」
「嘘つけぇ!! 角度が34度ずれてる!! また前みたいに壊したらただじゃおかないからね!!!!」
「あの時だって結局ジズのところに持っていって直してもらっただろうが!!」
「その前に壊したとこに問題があんの!! だから触るなって言ったのに!!! 僕の大事なギャンブラーに何かあったらどうしてくれんだよ!!」
「私は知らん! 知らんぞ! くどいわ!!!」
「知らんぷりすんのもいい大概にしろぉ!!!」
「二人ともいい加減にしろっス! 料理に集中できねーっスよ!!!!」

 それから少し後に、他の二人にも。


―――――――――――――
リリースされましたアリプロシングルのカップリング曲、「胎内ヒトガタ遊戯」(nm17122389)を、発売日当日に聞いてからものの数時間でこの設定が完成しましたwwww
スマの過去ちゃんと決まってなかったんだ。よっしゃあ!!!!!!
ジズさんとの出会いまで書けて満足!
母親の愛に餓えたスマと父親の愛を欲した碧はある意味対照的。因みにスマは今でも碧の過去をよく知りません。
スマが元気なスマイルを見せるようになる話でした。
今17歳設定なので、6年前の出来事ですね
因みにスマが窓から入る前に、もし屋敷の裏手までぐるっと回ってたら、あの立派な庭園をみつけて更に「What!?;」って感じでしたね


んで、次、キリコ行きます!
キリコは喋らないのでジズさん視点ですが、あくまでキリコ主体の話……
でもジズさんの設定もちょっと入っちゃってるけど;;;;

              ↓

キリコ

 いにしえの忘れられた街を守るからくり人形。
 幾年月もひとりぼっちで再び旅人が訪れるのを待ち続けている――――


 ………さて、ここはどのあたりでしょうか……
 ジズは道に迷っていた。というより探索していた。
 このポップンワールドに移り住んで早数年。住居はメルヘンランドの北東。外装は廃墟。中は豪邸。そもそも幽霊なのだから家など必要ないと思うのだが、MZDから『いいから住め!』と言われて仕方なく。住むにはお金が必要なので、試しに人形を作ってみたら面白いように売れた。このポップンワールドでは受けがいいようだ。
 元々生前から死後にかけて、ヴェネツィアで仮面やガラス細工、人形に興味があったので製造法を調べていた。霊としての相性も良いらしく、何故か自分には人形達の声が聞こえた。その人形に命を吹き込む事もできた。天性の才能というやつらしい。その末に本業が人形師になって、今では注文が殺到している。最初は質素でいいと思っていた家の中も、気付けば立派な住まいになっていた。
 霊になってヨーロッパを浮遊していたある時代、ビスクドールがフランス貴婦人の間で流行し始めてから、その流れを追っていた。
 最初は首や手足は固定式だったのが球体関節でジョイントされ、可動式になっていく。作りも技法も、どんどん洗練されたものになっていった。
 細やかな表情、しなやかな陶器。
 自分の生前から流行があったら良かったのにと悔しく思いもした。
 特に目を引いたのは人形達の瞳だ。中でも気に入ったのが“ペーパーウェイトアイ”と呼ばれるもので、義眼の手法で作られている。張り出しが大きく、虹彩に複雑な模様が入っている。簡易なものや、現代のものならともかく、アンティークドールの繊細なアイは、現代の技術では再現できないという。
 しかしながら、その当時使われていた道具、技法、材料など、自分は全て記憶していた。
 つまり、復元できない筈のアンティーク式のペーパーウェイトアイを復元しているただ一人の人形師、と、マニアの間で話題になっていたのだ。どうやらこのポップンワールドには人形を愛する者が多いようだ。おかげでペーパーウェイトアイでの注文が後を絶たない。最も繊細で最も手間がかかるので、あまり早くは仕上がらないのだが……
 充実しつつも忙しい毎日なので、今は気分転換にメルヘンランドを探索していた。大分遠くまで飛んできたが、ここはどのあたりだろう。

 そうして飛んでいた時、偶然に、その街を見つけた。

 いや、正確には“元”街だ。
 かなり文明が発達していたのだろう。今は廃墟となった街並みを見れば解る。
 まるでここだけ時が止まってしまったように静まりかえっている。
 誰からも忘れられた街、そんな気がした。

「……」

 幽体化を解いて地に足を着ける。
 メルヘンランドの外れにこんなところがあるとは知らなかった。やはりこの世界はまだまだ広い。
 街の大通りを進んでいくうちに、滅んだ理由に目星がついてきた。

 この街は滅ぼされたのだ。

 何故そうされなければならなかったのか解らないが、砲撃の跡がいたるところに残されている。
 家の中も覗いてみたが、割れた食器や壊れた家具、そして風化直前の白骨が見られた。
 本当に、恐らく滅ぼされた当時のまま、ずっと――
 白骨を目にする度に、胸の前で十字をきって、指を組んだ。
 霊である自分がこうするのは滑稽かもしれないが。

 更に奥へ奥へと進み、崖に埋もれるように崩れていたソレを見つけた。

 それは巨大な、絡繰人形だった。

 こちらも砲撃を受けたようで、大きな腕や大きな電球の頭は割られていた。胴体は頑丈な素材らしく、砕けてはいなかったが罅とへこみだらけだ。
 ………もう、壊れている。
 劣化具合から、大体200年前のものだろうかと推測できた。
 電球が発明された時期とこの人形が壊れた時期を照らし合わせると、やはり当時最先端の技術が使われていたようだ。ポップンワールドと現実世界では電球の発明時期は多少異なるだろうが、それでも文明、科学の進歩が早かったのだろうと思う。そんな街が何故――

「!」

 声が、聞こえた。

「………今のは、貴方の声ですか?」

 崩れる巨人に問いかける。
 また声が聞こえる。
 そうだと。
 私は敵ではないのかと。
 それとも久しく訪れなかった旅人かと。

「……敵ではありません。私はたまたまこの街を訪れた幽霊です。貴方はまだ完全に壊れていないのですね」

 沈黙する。
 そのまま声が返ってくる事はない。

 けれど、まだ完全に壊れている訳ではないのなら――

 手元に工具を出現させて、胴体の螺子をドライバーで開ける。
 何となく、放っておけなかったのだ。
 この街が何故滅んだのか、知っているのはこの巨人しかいない気がする。
 胴体を開いてみると、電気回路と歯車が緻密に入り組んだ作りになっていた。
 ――直せるかもしれない。
 黙々と作業にとりかかった。


 替えのパーツを用意し、巨大な電球も発注して、何日も巨人の修理に通った。
 そしてようやく、

「…………できた」

 直った。
「時間がかかってしまってすみません、キリコ」
 修理を進める内に彼の声が聞こえやすくなったので、キリコ、という名前は聞く事ができた。
 彼は立ち上がると5メートル以上の背丈があった。頭の電球は、眩しく輝かせる事もできた。

「……教えて下さい。この街で何があったのか」

 彼は私にしか聞こえない声で、話し始めた。


           *


 街は文明が進んでいた。今はメルヘンランドの片隅だが、その頃は街ではなく、ここは小さな国だった。
 隣接していた他の国より遙かに科学技術が発達していた。この国の人は皆優しく、平和を尊んだ。
 そして平和の象徴として、当時の科学技術を全て結集させて作られたのがキリコだった。
 大きな電球は、夜でも街を明るく照らした。
 平和の象徴。
 この街の守人。
 キリコは国の皆から慕われていた。小さな子供などとは、腕にブランコをかけて遊んだりした。自分の体で木登りをする子もいた。雨が降れば自分の下で雨宿りをした。
 キリコは国の皆が好きだった。

 しかし近隣の国は、キリコを平和の象徴とは思わなかった。
 まだ電気がどこの街にも普及していた訳ではなく、その光は奇異な目を向けられた。
 夜の闇の中で鋭く光るその様を、近隣の街は不吉なものと捉えた。
 やがて、ある街のトップが言った。

 あの巨人は近隣の国を滅ぼすために作られた巨大兵器に違いない。

 民はそれを鵜呑みにし、震えて怯えた。その噂はたちまち他の国々へと広がり、周囲は全て恐怖した。
 このままでは自分達は滅ぼされるに違いない。
 あの巨人を使って、皆滅ぼされ、のっとられるかもしれない。
 あの巨人がどのような仕組みになっているかも解らない。
 自分達には、あの巨人にまともに対抗できる程の技術がない。

 なら、滅ぼされる前に、周囲の国々で一斉に奇襲をかけよう。

 あとは、予想した通りだった。
 夜、キリコだけが明るく光る中、この国を囲むように一斉砲撃された。
 女子供はおろか、鼠一匹逃がさぬように。
 突然の奇襲に、人々が生き延びる術はなかった。科学は発達していたが、元々小さな犯罪も滅多におきない平和な国に、一斉砲撃にあらがえるような軍事設備は常備されていなかった。
 せめてこの奇襲の情報を得ていたなら、住民全員避難させたり、迅速に対抗策を準備する事もできただろうに。

 いつもブランコで遊んでいた女の子は、母親に抱かれたまま撃ち殺された。
 木登りをしていた男の子は、家から飛び出したところを爆撃された。
 それらを全て、砲撃を受けながら、キリコは見おろしていた。
 たった一晩の事だった。
 
 このいきさつは、国を滅ぼした後奇襲をかけてきた兵士達が、動きを止めたキリコを囲みながら話していたのを聞いて知った。
 国の皆を殺し、燃え残った民家から財を盗み、彼らは完璧に壊したと思ったキリコの前で輪になって坐り、酒を飲みながら談笑していた。


「―――――貴方は」
 そうなってからも、この街に住んでいた人々のために、この街をずっと守り続けていたのですね。皆が皆、家族だったのですね。
 もう誰もいないこの街で、ずっと一人で――

「キリコ、新しい家族の中に、入りませんか?」


 彼は私の家の、家族になりました。
 優しい巨人。
 今では屋敷の人形達や私の友人と、楽しそうにしています。


―――――――――――――――
お持ち帰りしました!
で、門番になってから、内部をちょっと改造して通信機つけたりスキャナーつけたりしました!
冒頭のは公式の紹介文です。 


では次ー
羊と土星の弟君達とジズラズです。これもそのまんま。
ほぼ台詞のみの小話です。
そのままゴー!

             ↓

兄弟の違い

「ああ、そういえばまだ君はジズに会った事ありませんでしたね」
「ええ直接は。確か、貴方達二人共一目惚れでストーカー行為にまで走った幽霊、でしたか」
「痛い記憶だな;」
「どんだけ迷惑かけてんですか兄上。僕もまだお会いした事はありませんけれど」
「そうだったな;しかし、フロウト君は7回目のパーティーで一緒だったのでは?」
「私は自分の収録が終わったらすぐ帰りましたから、殆ど誰とも接触していません」
「勿体ない事を」
「構いません」
「あ、僕はラズさんと赤闇さんになら、以前稽古を見に行かせて頂いた時にお会いしましたね。ラズさんとジズさんはそっくりだと聞きましたが」
「ああそうだったな。うむ。ジズとラズはまるで双子だな」
「特に貴方はラズに対して苦い思い出がありますしねぇ」
「それは君も同じだろう;確か昔ジズの庭園に……」
「やめて下さい古傷が痛む!!;」
「二人共一体何をしているんですか」
「えーと、今のお話だとお二人とも嫌われているのでは?」
「僕は今はそこまででもありませんよ;ただ、そうですね……テンさんはラズに」
「あー;いや、赤闇を通してなんとか警戒は解けた気がする」
「そうなんですか;」
「――で、この書物をジズのところに届けろと言うのですね」
「いいじゃないですか折角だし」
「何がどう折角なのですか。ただ単に雑用を押しつけているだけでしょう」
「そんな事ないですよ;そういえばジズから人形に関する本をいくつか借りたままだったからそろそろ返そうと思って;この機会に交流の輪を広げるのは良い事じゃないですか!;特に君は幽霊メンツとはセレーノ君しか接触していないでしょう」
「あれもいつのまにか混ざっていた、という感じですが」
「あ、だったら、僕もお供させて下さい! 折角ですし、ジズさんにも会ってみたいです!」
「フェイト?;」
「そうこなくちゃ! じゃ、お願いします!」


「――――はめられたような気がしてなりませんね」
「たまにはいいのではないでしょうかね;それに、僕らの兄が一目惚れ、ってどんな相手なのか少し気になります! ラズさんはお会いしましたけど、ジズさんはどんな方なのでしょう」
「さあ、どうでしょうね」

「――――――ここ、ですね」
「…………ここ、なんですか」
「はい。地図とも、ウォーカーの証言とも一致します」
「それにしても……ほんとにボロッボロの廃墟じゃないですか;;;どうやって住んでるんですか!?;」
「行けば解る、という言葉そのままですね。確かに。しかし幽霊なので相応の住まいでは」
「でも……これ入って歩いたら床ぬけるんじゃないですかね;フロウトさんみたいに僕浮けないし;」
「そこまで老朽化しているなら、私がフェイトも浮かせられますよ。とりあえずウォーカーは『中に入ったらもっとびっくりする』と言っていましたし、想像以上に酷い様を覚悟しなければなりませんね」
「うわあ;頑張ります;」
「頑張って下さい。では……あの巨人が門番だと言う話ですね。どういう仕組みでしょう」
「あれ?;あれって確か……」
「ご存じですか?」
「えと……10回目のパーティーで見かけたような」
「そうですか。とりあえず行ってみましょう」

「」
「――ウォーカーの双子の弟のフロウトと言います。こちらはフェイト」
「あ、カウント.テンの弟です!」
「」
「今日は兄に頼まれて、お借りしていた本をお返しにきました。ジズさんとやらはご在宅でしょうか?」
「」
「…………」
「…………」
「」
「…………」
「…………」
「」
「……壊れていますか」
「え;どうしよ――わあ!」
「」
「………中へ入れ、という意味ですか?」
「い、いきなり動いたからびっくりしました;」
「どうやら、害がない相手か見定めていたようですね」
「そ、そうなんだ」
「とりあえず、行ってみましょうか」
「はい!;」

カン、カン、
「………」
「………触ったら落ちるかと思いました;そのドアノッカー」
「そうですね。来客のためにここだけは補強しているのかもしれませんね」
「でも、返事がありませんね」
「……では、勝手にお邪魔しましょうか。幽霊屋敷などそんなもので」

「はい只今!」

「………」
「今の、女性の声でしたよね?」
「そうですね。ジズは男性の幽霊だと聞きましたが」
「……あ、もしかして!」

ガチャ

「いらっしゃいませ。キリコさんからお話は通っています。どうぞこちらへ」
「………あの巨人がキリコ、ですか。彼はあの場から動いていないように見えますが」
「ええ。キリコさんの内部は精巧な機械になっているそうです。初めていらっしゃるお客様は、まず外見と訪問内容をデータで取って、お屋敷のジズ様の元へテリーさんで……あ、電話で送られます。先程ジズ様が許可を出されたので、お迎えにあがりました」
「……………ほう」
「な、なんか凄いですね;」
「あ、申し遅れました。私、このお屋敷で給仕をさせて頂いております、シャルロットと申します。お二人をジズ様のもとへご案内致します。どうぞこちらへ」
「……そうですか。貴女が」
「セレーノさんが言っていたシャルロットさんですね」
「まぁ、セレーノ様が……光栄です」


「………なるほど」
「入って驚く、って……こういう事なんですね;;」
「ふふ。初めていらっしゃるお客様は皆さん驚きになりますわ」
「確かにこれは予想外でした」
「まさか、中はこんなに立派なお屋敷だなんて……」
「さしずめ、外装をああしておけば幽霊として都合がいい、という事ですか」
「はぁー」
「そのようです。では、こちらでございます。ジズ様! フロウト様とフェイト様がお見えになりました」

「どうぞ」

「……お邪魔します」
「は、はじめまし――あ、ラズさん!」
「アア、ヨク来タナ、フェイト」
「お二人共いらっしゃいませ。私がこの屋敷の主のジズと申します」
「私ハ ラズ ト言イマス。今ハ偶然ジズ ニ会イニ来テイマシタ」
「……ウォーカーの双子星の弟の、フロウトと言います」
「か、カウント.テンの弟のフェイトです! 初めまして!」
「はじめまして。今日はわざわざ本を届けにきて下さったのですね。有難うございます。どうぞこちらへおかけ下さい」

「……なるほど。本当にお二人はそっくりなのですね。テン伯爵が『まるで双子』と言っていた理由がよく解ります」
「――双子、ですか……」
「ソンナ関係ナラ良カッタデショウネ」
「?」
「あ、でもそう言えば、性別は違うのですよね?」
「え??」
「ハ???」
「え? あの、セレーノさんがいつも、ラズさんの事を『お姉様』って……」
「――――――――――――――――」
「ラズ落ち着いて!!!;;;;」
「え!?;」
「………男性ですね。体格で解ります」
「えぇ!? すみません僕てっきり!;」
「―――――イエ……悪イノハ セレーノ デスカラ……」
「あはは;まぁ、何も言っていないのにファーストコンタクトで間違えられた事もあるんですし、それに比べたら」
「ヤメテクレ」
「すみません;あの、頭冷えてます?;」
「…………少ナクトモ今コノ場デ暴レタリシナイカラ安心シロ」
「それは良かった;」
「えっと;;;;すみませんでした本当に」
「フェイト ハ悪クナイ。悪イノハ セレーノ ダ」
「あー;」
「失礼な話、と言えば、お二人にはうちの兄が大変ご迷惑をおかけしたようで」
「!;それならうちのも!;すみません!!!;」
「いえいえ!;もう昔の話ですし、お二人が謝る事はありませんよ!;」
「私は本当にウォーカーと双子ですので、礼儀として兄の愚行は謝罪すべきと」
「もう怒っていませんから大丈夫ですよ;でなかったら、こうしてわざわざ本を貸したりしませんから」
「それもそうですね。有難うございます」
「当時ハ屋敷ノ人形達ガ震エ上ガッテ動ケナクナル程怒ッテイタガナ」
「そう言うラズこそ;確かカウント.テンを半年くらい」
「雑草ニ除草剤ヲ撒イタヨウナモノダ」
「えっと;;;;すみませんでした本当に;;;」
「ダカラ、オ二人ハ悪クナイノデスカラ、気ニシナイデ下サイ」
「では、そうします」
「はい;」


「お邪魔しました」
「お邪魔しました!」
「またいらして下さいね」
「オ気ヲツケテ」


「…………少し意外です」
「え? 何がですか?」
「あの二人、どうやらただ顔が似ている仲良し、という訳ではないようですね」
「え………そう……ですか……仲は良さそうに見えましたが」
「悪い訳ではないと思います。ただ、何か別の理由もあるように見えました」
「へぇ……」
「とりあえず、兄弟だからと嫌われてもいないようで安心しました」
「それは確かに! ラズさんは会ってましたけど、ジズさんも優しくして下さって良かったです! それに、やはりお二人共本当にお綺麗で――あ、男の方に綺麗って言うのも失礼かな;とても素敵な方ですね」
「ええ。造形美は最高レベルと言っても過言ではないでしょうね。あの兄達が一目惚れするのも解る気がします」
「兄上……結構面喰いですから;」
「奇遇ですね。うちのもです」
「あはは!」


「――――意外ですね」
「アア」
「双子と、三つ下……兄二人はああなのに、弟さんはあんなにも違うものなんですね」
「確カニナ。私モ初メテ フェイト ニ会ッタ時ハ驚イタモノダ。ヨクモマァアノ兄カラ、コンナニシッカリシタ弟ガデキタモノダト」
「言いますねぇ;」
「言ウサ。マァ、頼リナイ兄ヲ見テ、自分モ落チブレテハナラナイト、真ッ当ニ育ッタノカモシレナイガナ。二人共」
「んー;一理あるかもしれませんね;」
「……………ソレニシテモ、『まるで双子』トハ」
「……………ラズ」
「ソンナ呑気ナ仲ナラ良カッタノニナ、ト思ウヨ」
「ラズ、でも私はそう言われて嬉しかったですよ。まるで双子のように仲良く見えたのなら、それは嬉しいです」
「…………ダガ実際ニハ、私達ハ“主従関係”ダロウ」
「ラズ……」
「ドンナニ親シクシテモ、楽シンデイテモ、コノ事実ダケハ絶対ニ変ワラナイ。私ガ“ラズ”デアル限リ」
「…………でも、でも貴方は!」
「“ラズ”ダッタカラコソ、赤闇ニ会エタ」
「……はい」
「有難ウ、ジズ」
「……こちらこそ、有難うございます、ラズ」



―――――――――――――――
本物の双子さんと、年違いの兄弟さんと、分裂した半身。
思いっきりギャグにするつもりが、ちょっとしんみりしましたw;すみません;
テリーは、ほんと、気付いたらジズ邸に居た感じです。


ほいじゃ、霊組の出会い。
そのままいくですよ

          ↓


あの日の願い


「……紹介シタイ奴ガ居ルンダガ」
「え?」
 ラズがそう切り出したのは、彼の家に呼ばれてお茶を頂いている時だった。
「私に、紹介、ですか?」
「……アア」
 最初は新しい生き人形でも作ったのかと思ったが、彼の少し恥ずかしそうな様子で違うと悟った。
「勿論構いませんが……その方は……」
「……………何ト言ウカ……ソノ……」

 「恋人だ」

 声と共に虚空から現れたのは、赤い服を着た幽霊だった。
「ッ! 突然出テクルナ!!」
「出なかったらいつまで経っても話が進まんだろう。この方がずっと早い」
「………ッ」
「……………こいびと……?」
 思わず呟いてしまった。
 この、赤い服を着た霊が、ラズの?
 ただの霊ではない。強大な力を蓄えた悪霊だ。その彼が、ラズの恋人――?
「……悔シイガソノ通リダ。ソウイウ事ダカラ紹介シヨウト思ッタ」
「一応、はじめまして、だな。私は赤闇と言う。これでも1000年現世に留まっているドイツ人だ。宜しく頼む」
「えっ、あ、はじめまして! 宜しくお願いします! ラズの半身の、ジズです」
 慌ててしまった。自分達より永く現世に留まっている霊には滅多に会わないだけに緊張する。しかし、
「ああ、私の方ははじめましてではないのだがな」
 そう言われて固まった。
「……え? あの、以前にどこかで?」
「ああ、大分前からこちらは知っていた」
「大分前?」
「勿体ブッタ言イ方ヲ」
「そう言うな。突然言い出したらそれはそれで動揺するだろう」
「え? え?」
 よく解らない。そんな私に赤闇さんは、

「まぁつまり、700年前にお前が契約を結んだ時から見かけていたという事だ」

「!」
 思わず身構えた。それは一体どういう事だ。
「ジズ、大丈夫ダ。モウ危害ヲ与エル気ナドナイ」
「もう、って……」
「つまらん言い訳は無用だろうからな。正直、最初はラズを、私の魔術儀式に利用する為に近づいた。ラズが分裂するまで観察していたんだ」
「な……」
 言葉を失った。
 利用?
 観察?
「一体……ラズに何を!」
「ジズ!」
 思わず声を荒げた私を制したのはラズだった。
「……モウ、大丈夫ダ」
 彼はただそう言った。
 私が知らないところで事が運び、終わっていたのか。一体何があったのか。
「警戒するのも当然だろう。確かに私は最初、悪意をもって近づいた。だが、あと一歩のところで自分の本心に気付いた。それで終わりだ」
「本心、って……」
「最初は演技のつもりだったのが、いつの間にか本気でラズに惚れていた。だから今ここにいる」
 瞳を見開く私の隣で、ラズが恥ずかしそうに目を背けた。
 そういえば彼のこんな表情は初めて見る。
「…………それで……ラズは」
「エ?」
「ラズは、赤闇さんをどう思っているのですか? 今の話だと貴方の気持ちが見えません」
「ソレハ……ッ」
 かぁっと赤くなった。
「くく……安心してくれ。見て解る通り相愛だ」
「見テ解ルトハドウイウ事ダ!」
「そこまで顔を赤くしていればどんなに鈍感な奴でも解る。鏡でも見るか?」
「ウルサイ! 余計ナオ世話ダ!」
「ムキになるのがいい証拠だな。可愛い奴め」
「可愛イトカ言ウナ!」
「では愛くるしいとでも言おうか?」
「ダカラァ!!」

「――――っ……ふっ……あはははは!」

 思わず笑ってしまった。
 警戒はもう必要無い。
 ラズがこんなにムキになるのは初めて見た。
 ラズにこんな軽口を言って飄々としている相手は初めて見た。
 そう、確かにこの二人は相思相愛なんだと実感した。半身の私がそう感じたのだ。間違いない。
「よく解りました。どうぞ宜しくお願いします赤闇さん」
 一礼してそう言った。
「有難うございます。ラズを選んで下さって」
 その言葉に、彼は悟ったように頷いた。そして、
「……礼を言うのはこちらの方だな」
 そう続けた。
「え?」
「ラズを生んでくれた事、感謝する」
 それは嬉しい言葉だった。私はラズを勝手に創って勝手に捨てた身だ。その私に、赤闇さんはまっすぐそう言った。
「………」
 そんな私達を、どこかほっとしたような目でラズは見ていた。私が警戒を解かないのではと心配していたのだろう。
「ラズの事は任せてもらおう。今、ラズの存在意義は、“私”だ」
 そう言い切った。
「これでお前も、少しは安心できたか?」
 微笑んで頷く。

 “いつか、彼にも現れたらいい。
  自分にアッシュという存在が居てくれたように、
  彼にも、自分の全てをさらけ出して、受け止めてくれる存在が――”

 あの時の願いは、今叶ったのだ。

 赤闇さんが赤闇さんだったから、ラズがラズだったから、互いを心から愛した。
 それが真実なのだ。

「……有難うございます赤闇さん。本当に、有難うございます」
「こちらこそ、だな。それと、敬称は付けなくて結構だ。自分の半身の存在意義に敬称をつけるのもおかしいだろう」
「……そう、ですね。赤闇、ラズを宜しくお願いします」
「オイ、何ダソノ嫁ニ出スヨウナ言イ方ハ」
「あながち間違っていないから良いではないか」
「イヤ違ウダロウ!」
「ああ、我が子を嫁に出す親の気持ちとはこういうものかもしれませんね」
「ジズ マデ何ヲ言ウカ!」
「おや、それでは一人彷徨っていた姫君を迎えに来た、とでも言おうか?」
「誰ガ姫ダ!!」

 大切な、私の半身。
 私をずっと愛してくれた、ずっと護ってきてくれたもう一人の私。
 そんな貴方が、他の誰かのものになるのは少しだけ寂しくもあるけれど。
 それよりも、貴方が貴方の幸せの為に笑えるという事の方が、私にはずっとずっと幸福な事です。

 貴方達二人に、心からの祝福を――



――――――――――――――
『鏡の約束』の最後のところのジズさんの願いが叶いましたね。
大分テンポよく進ませすぎちゃいましたが、この二人のファーストコンタクトはこんな感じで