はい。ではいきます。説明するキャラは碧です。緑スマ。
彼の場合はそのまんま小話があるので、解説文なしでサクサクいきます!

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緑ミドリ――黒黒赤――廻って反転

 雨が命を愛でるなど嘘だ

 アレは心を蝕む 悪魔


 “この世で最も嫌いな物は何?”
 と聞かれれば、僕は迷わず“雨”と答える。
 あの透明な雫ほど嫌いな物は無いよ。
 嫌な記憶を嫌でも掘り返す、あの音、匂い、空気――全部全部吐き気がする。
 だったらあんな透明な水、僕の手で真っ赤にしてやるんだ。
 ほら、この方がずっとずっと綺麗じゃない。
 僕の秘密の扉を開けようとするんだ。ひたひたと足音が聞こえる。扉の向こうから絶えず囁く声が聞こえる。
 聞きたくない。
 全部壊してやる。聞きたくない聞きたくない。黙れよ。
 ほら、これで一時は聞こえなくなる。辺りは滅茶苦茶だけど、真っ赤で綺麗じゃない。
 これで、他の事は気にならなくなるよ。
 これで、まだ、秘密は守られてる。
 この僕の手で。
 雨があるから世界は育っていくとか、反吐が出るね。
 こんな反吐が出るくらいつまんなくて汚い世界、せめて僕の目に映る範囲くらいは楽しくしてあげるよ。
 全部全部真っ赤に化粧させて、まるで絵本の中みたいじゃない。

 アレが僕を玩具だガラクタだとするなら、僕はこの世界を玩具にしてやる。

 ほらほら、これで、まだまだまだ秘密は守られたよ。
 永遠に。

―――――――――――――――
 これだけだとラスネールそのまんまですね。
 という事で次の、こっちが碧に何があって狂気っ子になったのか、の真相です。過去話です。
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ひみつはまもられた えいえんに

 ねえお父さん

   ボクを愛して

  ねえお母さん

    ボクを抱いて


 お父さんはいつも恐かった。いつもボクをぶった。
 お母さんはいつも優しかった。いつもお父さんからボクを庇って、一緒にぶたれてた。

 その目が気に入らないと、ある日お父さんはボクの左目を潰した。痛くて痛くて、涙のように血を流すボクを、お母さんは涙を流しながら抱きしめた。
 透明人間の一族。他の親族と同じように住んでいた筈だった。

 どうしてボクの家だけこうなったの?
 何がいけなかったの?
 どうしてお父さんは怒るの?
 どうしてお母さんは泣くの?
 ボクが生まれたのがいけなかったの?

 ある日、お父さんの機嫌がとても悪かった。
 とてもとても、悪かった。
 お父さんはボクを“ころしてやる”と言った。
 お母さんはボクを抱えて、一階の窓から放り投げた。そして叫んだ。

 “逃げなさい!”

 すぐ下の地面に転がって、ボクは訳がわからなかったけど、お母さんが窓を閉めてしまったから走るしかなかった。
 お母さんが逃げろと言ったから。
 でも、小さなボクは恐くて恐くて、少し離れた林で震える足で転んで、そのまままた立ち上がる事はできなかった。
 一本の木を背にして、体を透明にして、膝を抱えてずっと震えていた。
 どのくらい時間がたっただろう?
 やがて雨が降ってきた。焦った。
 濡れる、という事以前に、雨の雫が透明になった体を伝って形作ってしまうから。
 透明になっていても、そこにボクがいるって、すぐに解ってしまう。
 お母さんが迎えにきたならいいけど、お父さんが探しにきたら、終わりだ。
 でも、その場から動く事はできなかった。
 恐くて、寒くて、悲しくて、不安で――

 雨の向こうから、ひた、ひた、と足音が聞こえた。薄暗い中近づいてきたのはお父さんだった。
 恐くて恐くて、ただガタガタと震えた。
 けれども近寄ってきたお父さんは、静かに微笑んでボクの手をとった。そのままゆっくりと家に向かって歩き出した。

 怒ってない?
 もう怒っていないの?
 ぶたないの?

 やがて家についた。お父さんはそっとタオルを差し出した。ボクはそれで濡れた体を拭いた。タオルが温かくて、ボクは透明化を解いた。
 日がどっぷり沈んで暫くたった。家の中にお母さんはいなかった。どこを捜してもいなかった。
 でもお父さんは怒っていなかった。ボクをぶとうともしなかった。
 お父さんに向かって何は口を開けば必ずぶたれたから、お母さんが何処にいるのか訊かなかった。
 夜遅くなってから、お父さんがボクを呼んだ。食卓に連れていかれた。
 沢山のごちそうが並んでいた。
 どれもレトルトだったり缶詰だったりしたけど、それでも沢山沢山テーブルの上に並んでいた。お父さんが用意したんだぞ、と笑った。
 ボクはとてもお腹がへっていたから、夢中で食べた。美味しいか、と訊くお父さんに、何度も頷いた。
 お母さんはいなかったけど、お父さんが笑っていたから、しあわせだな、と思った。
 その夜は、初めてお腹いっぱいになって眠った。
 次の朝、起きてみたら朝ご飯があった。沢山あった。沢山食べた。
 お昼ご飯も、その日の夜ご飯も。
 どれも美味しかった。
 でも、お父さんはテーブルの上のごちそうには一切手を出さず、カップラーメンを何個か開けて食べていた。
 次の日も、その次の日もごちそうだった。
 お腹がいっぱいで、食べきれないくらいだった。
 でも、やっぱりお母さんはいなかった。

 ある日、朝からどしゃぶりの雨だった。
 まだお母さんはいない。
 もし、こんな雨の中どこかで歩いていたら、風邪をひいてしまうよ。
 ボクは傘を持って、お母さんを捜しに家を出た。お父さんはまだ眠っていた。
 小さなボクが無事に家に帰ってこられる範囲なんて狭いものだった。すぐに知らない道に当たって引き返した。お母さんはみつからない。
 視界が悪くなるくらい、激しい雨だった。
 家の周りをぐるぐる回ってみた。どこにもいない。
 家の裏には花壇があった。お母さんが世話していた花壇だ。
 あれ? と小首を傾げた。
 お花がない。
 いや、土をひっくり返したみたいにお花と草が埋まっていた。
 お母さんが見たらがっかりするだろうなと思った。
 激しい雨が土を溶かして、跳ね返らせて、汚していた。
 土の中に、お花でも草でもない何かを見つけた。土が雨で流されて少しだけ見えていたそれは、白い石みたいだった。
 そっと、土を掘ってみた。大きな石だった。
 長細くて、白い、大きな石だった。よくわからないぶよぶよした物がこびりついている。
 他にもあった。沢山沢山埋まっていた。
 まだ掘った。指先に何かが絡んだ。髪の毛だった。緑色の長い髪の毛。お母さんと同じ――
 柔らかい物が当たった。大きかった。掘り出してみた。
 腐って、虫に食われた、お母さんの頭だった。
 他の長細い石は、骨だった。肉をこそぎ取られた骨だった。
 後ろの正面に息づかいを感じた。
 振り返ったらお父さんが立っていた。
 笑っていた。楽しそうに笑っていた。
 お父さんは言った。

『母親が見つかって良かったなぁ!
  嬉しいか? 悲しいか?
  お前に悲しむ資格なんかねぇよ!

 さんざん母親の肉を食っておいてなぁ!』


 嗚呼、そういえばここ数日のご馳走――
 お肉が、やたらと多かったなぁ………

 ボクはお父さんの目に、お母さんの傘を突き刺していた。
 ぎゃあ、と鳴いて、ソレは仰向けに倒れた。
 ボクは花壇の脇にあった煉瓦を取った。重かったから、しっかり両手で持ち上げて倒れたソレの上に跨がった。
 ソレは何か叫ぼうとしたけど、その前に煉瓦が顔にめり込んだ。
 もう一度振り上げた。耳障りな鳴き声が聞こえた。今度は頭に向かって思いっきり振り下ろした。
 赤い血と、キタナイ脳漿をまき散らせて、ソレは静かになった。

 ボクは嗤っていた。

 コレは、ボクが母親の肉を食べるのを見てずっと笑っていた。
 そしてボクは、あの人を食べていたんだ――

 ボクは、ずっと嗤っていた。




「おい碧、リハやるぞー」
「今気分じゃないなぁー」
「ああ? 昨日からやるっつってただろ!」
「昨日は昨日ー。今日は今日なんだよぉー」
「なんだよソレ」
「おい、赫。無理だろう。明日にしよう」
「何でそんな簡単に食いさがるんだよグラ」
「窓の外を見てみろ」
「あ? ……ああ。ったくめんどくせーな」
「雨の日は機嫌が悪いからな。放っておくのが一番だな」
「……はいはい。解りましたよ。全く……」

「―――」

 雨が命を愛でるなど嘘だ

 アレは心を蝕む 悪魔

「雨なんか、だぁい嫌いだ」


―――――――――――――――――――――
 はい。これが真相です。
 この事件が幼い少年の心をぶっ壊しました。そしてぐちゃみそ大好き狂気っ子に!
 因みに碧の左目は見えてません。全体が白くなってて、痣もついてます。子供の頃に父親に思い切り殴りつけられて失明しました。赫とグラはこの過去知りません。因みに碧はなんだかんだでこの二人を大事にしてます。


 はい。じゃ、次!

 壱ノ妙いきます。
 
 キャラ紹介のとこでは、ジズが思わず作ったカラクリ人形としか書いてないですが、実はそこに至るまでが色々と複雑です。
 なんたって曲が、あの「幸せを〜」と「この子の七つ〜」ですから! あの素敵すぎる世界を崩したくないので、歌詞にのっとった話になっています。あさき大好きです。

                ↓


最後に残った ちいさな花 土を変えても 誇らしげに

 出かけて、やっと帰ってきた夫は、幸せそうな顔で寝ていた。二度と目を開ける事はない。 私が手を握っても、決して握り返してくれない。
 生きる希望を失った私は一人 独り ひとり

 違う。二度と会えぬと思った貴方のぬくもりは、私の中で生きていた。

 貴方が立てた鯉のぼりが空を泳いでいる。

 幸せの終わりに小さな花が咲いていたとして、私にとってそれが“この子”でした。

 私にはこの子がいる。この子がいる。この子が大きく育てば、貴方と過ごした日々の幸せが蘇る。幸せになる為に。私はこの子を守り抜く。
 何があっても、私はこの子を守ってみせる。

 家を囲んで、狐が嗤う。

 肺炎にかかったこの子、絶対に守る。あの人を失ったのに、この子まで奪われてなるものか。大丈夫。この子は笑っている。肺炎なんかに負けてはいない。

 家を囲んで、狐が踊る。

 老夫婦が囁く。この子を誰にも奪われたくないなら隠してしまえ。七つになれば人として確立する。それまで狐なんぞに奪われぬように隠してしまえ。

 病んだこの子を狐が奪おうとする。
「体を売って子を養うか! 恥ずべき奴だ!」
 ゲラゲラ嗤う狐が踊る。
 うるさいうるさい! この子の為だ。この子を育てる為なら何だってする!
 あの人が好きだった赤いぼんぼりに火を灯し、我が子を抱きしめる。
 奪わせない。鯉のぼりが空に昇っていくまで。
 この子に幸せの風が吹きますように。
「ほらほら、はやく息止めなくっちゃあ! 背中にしがみついて首刈るぞ!」
 狐の行列がこの子を掴む。この子だけはなくさぬように、逃げて逃げて逃げて。
 喉から漏れるのは嗚咽ばかり。
 ぼんぼりの灯が風に消える。
 この子の髪の毛一本誰にもやらぬ!

 狐が尾を振り、嗤う。

 毎晩謳う子守唄。お休み私の可愛い子。何も心配はいらないから、あなたはただ、すやすやとお休みなさい。

 彼女が抱いていたのは、いつの間にか息子ではなく、ただの人形だった。
 しかし彼女の目には、人形は我が子にしか見えなかった。


「初めての日本はどう? ジズ」
「素晴らしいです。パーティーに呼ばれた事、とても感謝しています」
「いい国でしょう?」
「ええ。特に日本人形の美しさには感服しました。資料で見た事はありましたが、実物は今回初めて見たので」
「人形師の心をくすぐったのね」
「はい。是非作ってみたいものです。造形美もそうですが、中のカラクリも合わせて作ってみたいですね」
「貴方なら、美しいカラクリ人形を作りそうだわ。――あ、そうそう……人形と言えば……」
 紫がジズに語ったのは、人里離れた山奥の小屋に住む、一人の女の話。
 夫と子供を亡くし、精神が狂ってしまったのか、いつも人形に向かって子守唄を歌っているという。彼女には人形は息子にしか見えないようだ。
 彼女を諭そうにも、小屋を訪れる者は息子を奪いにきたと、包丁を振りかざしながら叫ぶので誰も近づこうとしなくなった。
 その内容だけでも、充分に不憫に思えた。
「……ジズ、貴方なら彼女を何とかできないかしら。哀れで仕方ないわ」
「確かにそうですね。解りました。行ってみます。私なら包丁で刺されても死ぬ事はないので」
「そう……有難う。でも気をつけてね」

 相変わらず、女は人形に子守唄を歌っていた。
「何だお前は!? お前もこの子を奪いにきたか!!」
 女はジズの姿を見るとそう叫び、包丁を掴んで威嚇する。
 ジズが見てみると、女が抱く人形には、確かに子供の魂が宿ってしまっている事が解った。見た目は少女の人形だが、中身は息子だ。
 姿は違えど我が子は我が子。本人が幸せならそれで良いのだと、ジズはやんわりと彼女を宥めて帰ろうとした。
 しかし霊であるジズがやって来た事で狐達がざわめき、口々にこう言った。
「馬鹿な女だ愚かな女だ! そんなのただの人形じゃないか! お前の子供など、とうの昔に喰ってしまったさ!」
 嗤いながら狐は尾を振った。
 途端に、今まで息子だった筈の物が、ただの人形になっていた。
 本当の息子は、とうの昔に人形とすり替えられていた。自分は狐に化かされてそれに気付かなかったのだ。
 あの人が残した最後のぬくもりは、もう奪われた後。
 何もかもを失っていた。
 全てを悟った女は、金切り声を上げながら息子の魂が宿った人形を叩き壊した。人形の首がジズの足元に転がった時には、女は自らの首を切って死んでいた。
 狐は嗤いながら。散っていく。
 自分が訪れた為に女が死んだという事実に、ジズは底知れない罪悪を感じた。
 震える手で人形のパーツを拾い集める。女の遺体は丁寧に埋葬した。
 街に戻って紫に全てを話した。小屋の後始末などは何とかしてくれるだろう。
 人形屋の作業室を借りて、先程集めたパーツを広げ、息子の魂が宿った人形を元通りに造り直した。
 形を取り戻した子供の魂は言った。
 ありがとう 自分は幸せだ ありがとう
 そしてやっと息子の魂は昇天した。天国で、母子は再会できただろうか。
 残ったのはただの人形。しかし、この人形自体にも魂はある。ジズはその声を聞いた。その人形は動けるようになりたいと言った。
 ジズはこれまで子供の魂を宿し続けてくれた人形に感謝し、カラクリ人形に造り変えた。
 小柄な少女程の大きさで、造形も生み出された当初以上に美しく、けれど元来の造形を失わない、完全な人形に造り変えた。
 自らの術で喋って動けるようにした。
 人形は、自分と共に行きたいと言った。連れていってくれと言った。
 ジズは、名前はどうしたいか訊ねた。
 人形は小雨が降る窓の外を見やり、静かに言葉を綴った。
 あの少年は、彼女の唯一人の子供だったから、自分はこう呼ばれたい。

 “雨人形壱ノ妙”と。

―――――――――――
 はい。捻りがない話ですね;
 えーと余談として。妙、この時点ではちゃんと目も口も鼻も頬のふくらみも、細かい細かい日本人形でした。でも性格が予想以上のトラブルメーカーだったため、だいたい30分に一回はどっかしらぶつけるなりなんなりして壊しまくって、そ度に修理して修理して、って感じでした。で、また壊してとりあえず簡略化しといて、後で仕上げに整えよう、と思ったらMZDがその子出すから! って簡略化状態で写真とってオファーにしちゃったから戻すに戻せなくなりました; で、今に至る。今ではジズ邸1の元気な子です。シャルと仲良し。

 次!
 メメいきます! 解説ノ前に、軽く小話。

          ↓



天の御使いにあらず

「――汝の御霊よ安らかに」

 また一つ、魂を運んだ。今日の仕事はこれで終了だ。一つ伸びをしてから、自分で“お仕事モード”と呼んでいる本来の姿から、いつもの子供の姿に戻る。
 こっちの方が色々と、気も楽だし、得もあるし。
 人界の空を飛んで家に帰る途中、ポエットと会った。
「あ、メメ! 仕事帰りなの?」
「うんそうだよ。ポエットちゃんはこれからお稽古?」
「そう。早く一人前になれるように頑張らないと!」
「大変そうだねぇ。頑張ってね」
「うん! じゃ、またね!」
「ばいばい」
 天使見習いの彼女は、無邪気に笑って飛んでいった。
 彼女と会うと、初対面の時の事をどうしても思い出す。

『メメは……“天使”じゃないの?』
『―――“死神”だよ』

 白い翼を持つ僕に、彼女は不思議そうにそう尋ねた。
 でも、違う。
 白い翼を持っていても、僕は天使なんかじゃない。天の御使いじゃないんだ。

 我は冥府の使者。

 この世に存在する魂を在るべき姿に還す為、在るべき場所に還す為、在るべき裁きを下される場所へと運ぶ水先案内人。

 天使だと、思ったさ。
 白い翼を持って生まれたその時は、自分は天使として生まれたと思ったさ。
 でも違う。全く逆。
 死んだら天使様が迎えに来る、とか言う人もいるけど、そんな優しいものじゃない。
 天使は天国の入り口に来た魂に、門を開ける。悪魔は地獄の入り口に来た魂に、門を開ける。
 死神は、裁きの場まで連れていく。天国でも地獄でもない場所に送られる魂もたまにいるので、そこまで連れていく事もある。
 どちらにせよ、最期の最後に人を“殺す”のは、僕ら死神。魂と肉体を繋ぐライフコードを切って、連れていく。
 この仕事を始めて、もう300年になる。
 使者としての信頼もある。
 誇りも持っている。
 やりがいだって見いだしている。
 でもせめて――この翼が白でなかったら……
 せめて黒だったなら、もっと最初から気が楽だったのに。

 ねぇ、MZD、何で僕の翼は真っ白なのさ。
 “死”を司る“天使”だとか言ったっけ? そんな綺麗事よしてよ。ご機嫌とりにおだてたって何にもならないよ。
 いっそ、自分でむしり取ってしまいたくなるよ。そんな事をしたら仕事に支障がでるからできないけどさ。

 僕は天使じゃない。
 天使じゃないのに――――

 天使に生まれたかったか、と訊かれれば頷く。今の仕事が嫌かと訊かれれば首を横に振る。
 嫌じゃないんだ。嫌じゃない。これが僕の使命。
 でも、この翼による負い目は消えない。
 本物の天使達を冒涜しているような気もする。自分でもこの翼は好きじゃない。
 どうしたらいいか、よく解らない思い。どうしたって結論なんか出やしないって解ってる。でも、ずっと鉛のように胸に沈んでいる。

 僕は冥府の使者。
 この身が朽ちるまで、使命を全うする。
 これは僕の意志。

「―――さーてと、ジズのとこでお茶でもしようかな」
 独りごちて、死神に似合わない大きな白い翼を広げ、親友の家に向かって飛んでいった。

――――――――――――――――――――
 メメの話。
 刹那家のキャラは(セレーノ以外)心に何かしらの闇や悩みを抱えています。
 だって、真っ黒な心の闇、なんて、誰もが持ってるありふれたもの。自分だけが辛い、自分だけが闇を抱えて悩んでいる、なんて事ないですよね。
 みんなみんな、それぞれ心に深い闇を抱えている。
 一人じゃない。辛いのは自分だけじゃない。みんなそう。
 これが私のモットーだったり、ね;
 メメもそんな風に考えてますね。普段気丈にしてますが、こんなコンプレックスを抱えているメメ。

 で、解説、っていうかメメの出生について。

 まず、メメは本物の天使です。本人絶対に認めませんが天使です。でも出生がとてもややこしいです。
 彼はポップン界ではなく、実世界のほうのドイツ出身です。天使なのに天界じゃありません。ドイツ出身ってのは公式プロフィールから。やっぱり公式には従わないと。

 でで、天使が地上でどう生まれたかって、ある修道院の、信心深い修道女に処女懐胎しました。メメが生まれてすぐその修道女は死んでしまったので、彼は顔も覚えていません。一人の人間が天使を孕むという聖気には耐えられなかったからです。
 そこから他の司祭や修道女に育てられました。懐胎した時は、みんな彼女を指さして淫行したと罵りました。でも生まれた彼に翼があったから、やっ と処女懐胎だって認めます。天から天使を授かったって大喜び。でもローマならともかく、ドイツで生まれた天使なのに、真っ黒い髪に真っ黒い目。金髪碧眼じゃなかった。それだけでもどこかオカシイって言われてたのに、成長し たら角まで生えてきた。
 メメは当時から自分は天使だと信じていました。だけど周りは、きっと神に帰依する教えに反した淫乱女に、罰として堕天使を下したんだって罵るようになりました。そうじゃないと言ってくれる人も沢山いたけど、やっぱり辛かった。立派に育てれば、きっと天から使いの啓示が降りるだろうと言われてた。教示を習い、説法を聞いて――それらの小さな間違いや正しい箇所が漠然と、何も言われないのに理解できた。翼を広げれば飛べた。苦しむ魂の苦悩が見えた。周りから罵られても、やっぱり自分は天使だと誇りを貫いてた。育ててくれた人達のためにも、きっと指命を全うしようと。他の修道院に住む少年少女達にこずかれたり、化け物を見る目で罵る大人に負けず、メメは生きました。そして彼が歌う賛美歌は、まさに天使の歌声でした。
 13歳の誕生日に天命が下りました。これから神に仕えて、神の使者として生きるようにと。どんな仕事を任されるのか期待しました。しかしその仕事とは、死を司れ。
 それも、世界をまたぐことになった。たまたま、メメに天命が下ったのと、ポップン界の天界人員に不祥事が起こったのです。それでなるべく早く、既に知識と能力をもった使者がポップン界に必要になった。メメは現実世界では新参者。別の世界に送る人員として、最も好都合だった。実世界の神もそれが良いと送り出した。こっちのMZDが迎え入れた。
 悪いけど、これからはこっちの世界で冥府の使者として働いてもら、っと。
 与えられた仕事は魂を狩って運ぶこと。
 自分はポップン界で死神になるために、現実世界で媒介となった修道女を 死なせて、周りも不幸にして――それでも尚、死者の魂を運ぶのか、と苦悩しました。
 こんな状態で、『お前だって天使だぞ』なんて言われたって、信じられる訳ないです。 せめて最初から――天界で、光から生まれていれば、まだマシだったのかな、と自分の出生を悲嘆しました。
 そして、今に至ります。
 なので、微妙にMZDと確執っぽいものがあります。でも仲悪くないです。あんな自由奔放な神様でも、今自分がいる世界の上司です。一応敬ってもいます。ただ胸の奥に、こんな気持ちも抱えているんです。MZDも彼を不幸にしてしまったなと罪悪感を感じてます。
 でも、仲悪くはないんです。メメは世渡り上手でドライな性格です。悩みなんて誰でももってる。辛いのは自分だけじゃない。そう考えて今の仕事に誇りを持っています。

 はい、こんな感じですね。