これは説明は短いのでぱぱっといきます。
 とりあえず初対面でテン超びっくり。双子の弟がいるとは聞いていたけど、このウォカとのギャップ! 確かに顔は同じだけど、無表情だし。双子って言うから髪も目の色も同じかと思ってたら違うし――まぁ、そこは種族が違うからいいとして、性格とか話し方とか、顔も声も同じなのに差がありまくって何これ状態です。
 フロから見れば、いつか兄を殺してしまう恋敵です。あからさまに嫌悪はしませんがちょっとピリピリしてます。
 で、まぁ、恋人としての勘で、フロもウォカが好きなんじゃないかとテン気づきました。
 最初は否定してましたが、確信があるように問いただしてくるもんですから、フロも折れて白状します。勿論ウォカは何も知りません。テンとしては、それじゃあ自分を好いてくれる訳もないなと複雑ですが、それでも、彼とは仲良くやりたいと思っています。

 そしてもしも、もしも何らかの事故で自分がウォーカーよりも先に死んでしまったら、彼をフロウトに任せたいと思いました。
 彼には、自殺なんかしてほしくないから、自分が果たせなかった幸福を寿命の終わりまで、一緒に味わってもらいたいと。


 さて、フェイトいきます。
 これは簡単に小話あるのでそのままゴー

            ↓

 
弟同士

 ウォーカーと、テンと、そしてフェイトでテーブルを囲んでいた。していたのは他愛のない談笑。特に何か議論を交わしていた訳でもなく、たまたま何となく雑談していただけだった。 その時までは。

 ピンポーン

「おや、誰だろう?」
「あ、僕出ますよ」
「有難うフェイト君」
 呼び鈴を鳴らした客が誰かも知らず、玄関に向かったフェイトは、
「――はい。どちら様で……………え?」
「―――――は?」
 その相手を目にして硬直した。

「……………」
「……………」
「……………」
「………………テン伯爵の血縁の方ですか?」
「え? あ、はい! 次男の……フェイトと申します」
 先に口を開かれ、どぎまぎしつつそう答えて頭を下げる。頭の中はまだ少し混乱している。
 何故ならリビングで茶を飲んでいる兄の恋人と、そっくり同じ顔なのだから。
「そうでしたか。伯爵の……」
「ええ。あの、もしや、ウォーカーさんの御兄弟、ですか?」
「はい。ウォーカーの双子星のフロウトと言います。今日は兄が性懲りも無くまた忘れていった本を届けに来た次第です。彼は居ますか?」
「あ! はい! 今リビングで兄上と……弟さん、なんですね」
「ええ。まぁ弟と言っても、たったの0.000000000000000000000001秒差ですが」
「へ、へぇ……あっ 立たせてしまってすみません。どうぞ」
 やっと事態を呑み込んできた。
 なるほど。双子なんですね。でも随分淡泊な……ウォーカーさんと同じ顔だから余計に……何と言うか……
「構いません。元より上がる気はありませんでしたから。これを兄に渡して頂ければ」
「え、しかしっ」
「では、私はこれで」
「あ! フロウトさんっ」

「え? どしたんですかフロウト」

「……あ」
「……」
 遅いからどうしたのかと、ウォーカー本人が来てしまった。
「?」
 ただ首をかしげる彼。そんな双子に挟まれる形になるフェイト。そして、
「――どうしたではありませんよ。貴方これで私のところに本を忘れていったのは何回目ですか?」
「あ、それやっぱりフロウトのところにあったんですねぇ」
「解っていたのなら、自分から取りに来て下さい」
「まぁまぁ。届けてくれてありがとうございます。どうですか? フェイト君とも会ったのは初めてでしょう? 一緒にお茶でも」
「結構です。本を届けに来ただけですから」
「そう言わずに。アッサムでいいですか? 淹れますね」
 返答無視してさっさとキッチンへ向かってしまったウォーカーに、フロウトは重いため息を吐いてから、
「―――お邪魔します」
「あ、はい」

 かくして茶会は続く。


――――――――――――――――――――
弟同士初対面!


その後

「――――えっ!?」
 玄関に向かった恋人と弟に加え、戻ってきたら増えていたもう一人に席を立って驚いた。何故なら、
「――お邪魔します。テン伯爵」
 恋人の弟――密かな恋敵まで一緒だった。
「……フロウト君」
「ウォーカーがほぼ強制的に招いたせいで、お邪魔する事になりました」
「えぇ? 何でそんな嫌そうなんですか?」
「元より上がる気はありませんでしたから」
「そういうとこノリ悪いですよぉ」
「貴方のように暇でもないので」
「むぅ」
 いつも通りの兄弟の会話。フロウトがウォーカーに対してやけに冷たくあたるのは、距離をおかなければという意志の現れ。
 それをテンは解っているが、フェイトの方は先程から唖然と双子の会話を聞いていた。
無理もない。
 声も顔も同じなのにこの温度差だ。
 そんな状態でウォーカーは新しくお茶を淹れ直しに行く。
 幸いフェイトが持ってきたスイートポテトのお陰で菓子の数は足りた。
 ウォーカーが作った分は先程食べてしまったので、たまたまフェイトが寄ってくれなかったら申し訳ないところだった。
「………」
「………;」
「…………;;」
 何となく、無言になる三人。
 自分が来た事で空気が混乱していると気を遣ってか、珍しくフロウトから口を開いた。
「……ご兄弟と覗いましたが、確かに似ていますね」
「あ、ああ。そうだね。それはよく言われる」
「ええ。ウォーカーさんとフロウトさんほどじゃありませんが」
「そりゃあ、私達は双子ですから」
「あ、あの、双子の兄弟って、どんな感じですか?」
 興味を示したようにフェイトが聞く。
「……どう?」
「年が離れていないと、やっぱり兄とか弟とかの意識って無いんですか?」
「……そうですね。上だの下だのはあまり意識しません」
「へぇ」
「それでも、何か自分に不利になったときだけ“兄”の権力を振りかざしてくるのですから迷惑ですが」
「へぇ;」
「そちらは? 確か八人兄弟と聞きましたが」
「ええ。僕の下にもう六人――弟と妹が三人ずついます。自分がしっかりしなきゃ、って思いますね。兄上は勝手が多いですから」
「!;」
 ぴくっと反応するテン。
「でしょうね。私から見てもそう思います」
「;;;」
「やはりそうですかぁ。すみません迷惑をおかけしているようですね」
「ええ。多大に迷惑を被っていますが、貴方が謝る事ではありません」
「ちょ;;;;」
「有難うございます;もう兄上、何しているんですか? 勝手すぎるのもいい加減にして下さいよ」
「え;」
「本当ですね。弟君にも迷惑が多いようで」
「な;」
「多いなんてものではありませんよ。ねぇ?」
「いや、ちょっと;」
「本人がそう言っているのですから、少しわきまえたらどうですか? 伯爵」
「あの;」
「弟の気持ちの解らない兄はこれだから」
「お前だって下の子らの兄だろうが!;」
「僕は弟の気持ちも解りますもの。特に僕は兄上が勝手をするおかげで、“兄なんだから我慢しろ”って言われて下の子を面倒見てたんですから」
「難儀そうですね」
「弟には弟の苦がありますものねぇ」

「ちょっと二人共、テンさんをいじめすぎですよぉ?;」

 茶器を持って戻ってきたウォーカーだが、これは間が悪かった。
「何を言っていますか? 貴方も同じでしょう。他人事ではありませんね」
「え?;何がですか?;」
「弟の苦を全く顧みない兄の愚行、という点で、貴方も最悪です」
「最悪!?;」
「普段は双子だからと意識しない癖に、何か不利になれば“兄を敬え弟”などと言う。愚直ですね」
「いえ、それは;」
「真実でしょう。“自分が兄なのだから”“弟のくせに”などと」
「あの;」
「たったの0.000000000000000000000001秒差の兄の権力など有りませんね。そう言いたいのなら言いたいで、もっと兄らしい落ち着いたゆとりのある行動をしてもらいたいです」
「;;;;」
 その会話に吹き出すフェイト。
「兄弟って、やはりそんな感じですよねぇ」
「そうですね。双子も双子なりに苦労します」
「僕達は弟同士ですものね。もっと仲良くして下さいフロウトさんっ」
「構いませんよ。フェイトさん」
「あ、僕の方がずっとずっと年下ですから、どうぞ呼び捨てにして下さい」
「そうですか。解りました。宜しくお願いしますフェイト」
「はいこちらこそ!」

「……………………;」
「……………………;」

 弟達の会話に、顔を引き攣らせる兄二人。
 少し冷めた紅茶を飲む。
 何故だか、舌がしびれる心地がした。


――――――――――――――――――――

 仲良くなりました!!!w

 はい。こんな感じですね!;あと残ってるのは、おまけって感じですけど一応、


弟派遣

「テンー」
「何だ?」
「来月式典あるけどさぁ」
「あるな」
「帰ってくるよね」
「死んでいたら帰ってくるさ」
「ちょっと十代目!!!」
「死んでいたら帰ってくるさ」
「生きて帰ってきてお役目努めて下さい!」
「嫌だ」
「またそんなわがままを!」
「何が悲しくてあの頑固親父と同席せねばならんのだ」
「…………………チェックメイト」
「む!」

「嫌なのは解るけど当主欠席とかありえないからね!」
「ふん」
「ねぇ、母上もがっかりするよ? 下の弟妹だって会いたがってるよ?」
「弟妹や母上に会うのは良い」
「だから我慢してよ」
「誰かあの頑固親父に毒をもって当日寝こませる、というのなら行く」
「あのねぇ」
「ふん」
「大体さあ、こうやって数ヶ月に一度しか帰らないから余計嫌になるんじゃないの? 元々本家出て行く時だって、『式典や有事の際にはいつでも戻る』っていう約束があったじゃない。これ以上わがまま言うと父上は更にイライラするよ。僕らにもとばっちり来るんだからやめて下さいよ兄上」
「…………むぅ」
「いい? 母上からも今日は説得してきてくれって頼まれてるんだからね! 来てよ!」
「…………………解った」
「よし。聞いたからね」
「仕方ないなぁ」
「約束したからね。ちゃんと来る事。いい?」
「解ったと言っているだろう」
「何ならさ、ウォーカーさんも一緒にどう?」
「何故彼まで!」
「だって、どうせウォーカーさんが一人になるのが嫌だとかねちねちブツブツ言うでしょテンは」
「……しかしな」
「式典のお客様として扱いは丁重だし、ご馳走でるし、丁度いいんじゃない?」
「むむぅ……」
「あ、それと………」
「何だ?」
「――いや何でもない」
「気になるだろう」
「いや、あの子が………フロウトさんに会いたがって仕方ないんだ」
「…………アルダか」
「……結構、お熱だよ?」
「………………………あいつも頑固な娘だからなぁ」
「テン程じゃないよ」
「何?」
「や、だから、顔同じだけどウォーカーさん来るなら、更に勝手に妄想してどっぷりになりそうだから、ならいっそご本人連れてきちゃったほうが色々と平和じゃないかと」
「………………一理あるな」
「ウォーカーさんに相談してみない?」
「解った。考えておく」



お客様交渉 そしてお呼ばれ

「――という事で、君と、良かったらフロウト君も来ないか?」
「僕は勿論OKですよ! フロウトは……どうでしょうねぇ」
「うーん。やはり少し厳しいか」(恋敵の家に好んで行く者もそういないだろうし;)
「伯爵家の科学研究が見られる、という餌を吊したらひっかかってくれるかもしれませんよ」
「ウォーカー君その言い方はどうかと思うよ;」
「あはは;まぁ、どんな返事がくるか解りませんけど、駄目もとで話してみますよ。アルダちゃんの為にもね」
「有難う。お願いするよ」


「―――という事で、伯爵家が他の爵家を率いて研究している実験模様なんかも見れそうですし、あの爵家の式典と言えばなかなか見られないような行事ですし、歴史文化の観察にはもってこいだと思うんですよ。どうです? 君も来ませんか?」
「………興味深い話ではありますが、私が行っても気苦労をかけるばかりでしょうし、お断りします」
「そんな事ありませんよ! フェイト君も是非来て下さいって言ってましたよ?」
「そうですか」
「それとほら、前に一度行った時会った、末っ子の女の子覚えてます?」
「………アルダ嬢ですか?」
「ええ。またお勉強を見てほしいんですって。彼女も君に会いたがって仕方ないらしいですよ? 一緒に行きましょうよ!」
「…………解りました。仕方ありませんね」
「やった!」



「――――やれやれ。すまないね急に」
「いえ別に」
「まぁまぁ。予定より少し遅くなりましたね。大丈夫ですか?」
「連絡はしたから大丈夫だろう。どれ」

「お帰りなさいませ御当主様」
「今戻った。フェイトは?」
「はい。すぐにいらっしゃるt」
 ダダダダダダダダダダダダダダダダダ
「お帰りなさいませテンの兄上様ああああ!!!!!!!」
「アルダ!;」
「おやアルダちゃんお久しぶりですねぇ。お元気でしたか?」
「あ、ウォーカーの兄上様! ええすこぶる元気元気です!」
「アルダお嬢様そんな走ってはいけませんよはしたない!;」
「やっとお見えになったのよ? 固い事言わないのよ!」
 慌てるメイドもはねのけてそう言う彼女。
 年は12。伯爵家8人兄弟の末の妹である。
 水色の髪に鬱金色の角。非常に短いものがちょこんと見える。
 短く、巻いていないのは年齢もあるが、女(雌)だからだろう。彼女の母の角と比較してもそれ以上生えない事が解っている。

「お元気そうで何よりです。アルダ嬢」

 ウォーカーの背後からフロウトが顔を出した途端、彼女のテンションが急上昇した。
「まぁあ本当にいらして下さったのですねフロウトの兄上様!!!!!」
「ええ。呼ばれたので」
「テンの兄上様GJ!!!!!!」
「は?; お前なぁ」
呆れるテンをよそにウォーカーはくすくすと笑っている。そこへ、

「ちょっとアルダ! ばたばた走るんじゃないよはしたない!;」

 フェイトもやってきた。
「待ち焦がれていたお客様がやっとお見えになったんですよ!? これが走らずにいられますか!?」
「小走りくらいならいいけど全力ダッシュするんじゃない!;父上に見られたら雷落ちるぞ!;」
「見られなきゃいいのです!」
「というかちょっと待て待ち焦がれていたのは私ではなくお客の方か?;」
「あらテンの兄上様。そんな事言いましたっけ?」
 そんな調子で歓迎され、立ち話もなんだからと、ウォーカーとフロウトは客人用の部屋に案内された。

 今回の宿泊中には、何か問題も起きそうだ。


――――――――――――――

 末っ子のアルダちゃんですw;
 色はセバスカラーですな



恋する乙女は無敵なのよ!!!!

 ポーチに入れたのは(口実のための)お勉強道具。それと愛用のブラシ。小さいコップ。これだけあれば完璧だわ。

「――――で――――にし――か? フロウト」
「ええ。私―――の―――にしま――」

 お二人のために用意された部屋のドアにコップを押し当てて、そこに耳をつける。防音がしっかりした屋敷なので会話内容までは解らないけど、声は聞こえる。よしOK中にいらっしゃるわ。起きてらっしゃるわ。
 この屋敷にお見えになったのが夜だったので、お食事をして入浴して頂いて、お疲れでしょうと議論や土産話なんかは明日にして今日はもうお休み頂こうという事になった。
 ふっふっふ。しかしこんなチャンスは滅多にないの。明日からは式典の準備だので色々忙しくなるから、ゆっくりお話できるのは今夜しかない。行くなら今。前進あるのみ。恋する乙女は無敵なのよ!

 コンコン

「――ん?」

 ノックをすると驚いたような声が返ってきた。同じ声だけど、わたしには解るの。この感じはウォーカーの兄上様だわ。ほらドアを明けたのはやっぱりウォーカーの兄上様。わたしには解るのよこのご兄弟の違いが! 愛よ!

「あれ? どうしたんですかこんな時間に?」
「こんばんはっ」
 優しく微笑んで迎えてくれた兄上様に、笑顔いっぱいで答える。
「……アルダ嬢。こんばんは」
 嗚呼フロウトの兄上様! お客人の為に用意されていた高価な生地の落ち着きあるバスローブがなんてお似合いなのでしょう! ちらりとみえる鎖骨がなんて色っぽいのでしょう素敵!!!!
[※ウォーカーも色違いを着ています。]
「あの、御一緒させて頂きたくて。いいですか?」
 ドキドキしながら尋ねると、
「いいですよね? フロウト」
「構いません」
 二つ返事きたわコレ!!!!!!!
 花も恥じらう乙女を夜の部屋にあっさり招き入れるなんてフラグだわ!!!!
 嗚呼どうしましょう部屋に入ってドアを閉めたらお二人がわたしを取り合って……駄目よウォーカーの兄上様貴方にはテンの兄上様が……! わたしってば何て罪な女なのかしら!
「あ、有難うございます!」
「どうぞ」
 くつろいでいらしたらしく、テーブルの上には備え付けの茶器が並んでいた。
 あら、お二人とも紳士だわ。取り合ったりせずにソファーに誘導して下さるなんて。素敵!
「どうなさったんですか? もう夜も遅いですが」
「あ、あの! 今日中にしなくてはいけないお勉強で、どうしても解らない問題があったので、もしまだ起きてらっしゃったら教えて頂けないかとっ」
「おや、お勉強熱心ですねぇ」
 にこにこと笑うウォーカーの兄上様。OKこの調子。
「だ、そうですよ? フロウト」
「………私ですか」
「はい是非! 前にお会いした時、とても解りやすく教えて頂けたので!」
「ですって。教えてさしあげなさいよ」
「……解りました」
 よっしゃあ!!!!!
 テーブルに持ってきたお勉強道具を開いて、昼間よく解らなかった問題を教えて頂く。
 お勉強は嫌いだけれど、フロウトの兄上様が先生ならわたし何時間でもお勉強できそうな気がするわ! そして教師と生徒の間に芽生えr
「では、やり方は解りましたか?」
「はい!」
 いけないいけないわたしったら。
「なら、身につくように類似問題を解いてみましょうか」
「わかりました!」
 隣で微笑ましそうに眺めるウォーカーの兄上様はまぁいい許容範囲として、嗚呼二人で夜にお勉強なんて素晴らしく幸せな時間d

バタン!
「アルダ!!!!!!」

「ええ!?」
「え? テンさんどうしたんですかこんな時間に」
「夜も遅い時間ですよ。騒がしいですね伯爵。せめてノックくらいして下さい」
 フロウトの兄上様もっと言ってやって下さい。いくら敬愛する現当主様とて乙女の至福の時を予告なく強制終了させるなんて酷いわ!
「ああすまない。急を要したもので」
「急、ですか?」
「いや、まさかと思ってアルダの部屋に行ってみたら案の定もぬけの殻じゃないか。お前は一体何やってる! お疲れの客人の部屋にこんな時間に潜り込んで!」
「テンの兄上様には関係ありません! わたしは今お勉強を見て頂いていたのです!」
「どうせ口実だろうが! そんなの明日でも充分! さっさと来い!」
「いやー!!!!!」
 この! 花も恥じらう乙女を猫のように掴み上げるなんて最悪なのだわしかもフロウトの兄上様の前でなんて!!!!!
「テンさんテンさんそんな乱暴しなくても! 僕達なら大丈夫ですよまだ寝ない気でしたしっ」
 ウォーカーの兄上様お優s………はっ!
「そうだわ! 折角のゆっくりできる夜ですもの! ウォーカーの兄上様、テンの兄上様のお部屋でお休みになられたら如何かしら?」
「え?」
「なっ」
「」
 名案。
 アルダすごい。アルダ天才。
「だって明日からはテンの兄上様も忙しくなりますでしょ? 実家で恋人と同じ部屋で過ごせるなんて今日くらいですよ! 折角はるばるお見えになったんですもの。御一緒に過ごすのが一番だわ!」
「それは……まぁ」
 はっ。チョロい。
「でも、御当主のお部屋になんて……いいんでしょうか」
「いいに決まっています! この家で一番偉いのはテンの兄上様ですものっ。折角来て下さったんですし、少しでも楽しんで頂きたいです!」
「そうすれば良いではないですか。私は構いません」
「え、フロウト君……しかし」
「大丈夫です!!! その代わりにわたしが、フロウトの兄上様の接待をさせて頂きますもの! お客様に不自由はさせません!」
「は? アルダ?」
「アルダちゃん……?」
「今夜一晩、責任をもってお仕えしますわ! フロウトの兄上様!」
 ぽかんとするウォーカーの兄上様。テンの兄上様は最初は慌てていたけど、だんだん悩み始めた。そうよ自分の部屋でラブラブしていればいいんだからギブアンドテイク!!!!
 そして――

「私は構いませんよ」

 はいキターーーーーーーーー!!!!!!!!
 乙女と同じ部屋で一晩過ごす事を了承したいや寧ろ歓迎したあああああああああ!!!!!!! フラグよ!!!!! フラグだわ!!!!!!!!
「……まぁ、フロウト君がいいのなら………えぇと、君はどうだい?」
「僕は……はい。勿論」
「ではお休みなさいませ兄上様方!」
 アルダ最高!!

 お二人は部屋を出ていって、今はわたしとフロウトの兄上様……いえ、フロウト様と二人きり!!!!!
 夜の! 部屋で! 男女が! 二人きり!!!!!!

「では、続けましょうか」
 そして再開されるお勉強。もうフロウト様ったら本当に紳士なんですから……きゃっ。
 一通り教えて頂いて、ではそろそろ眠りましょうかと提案される。
 でも待って下さいましその前に!!!!
「あ、あのフロウトの兄上様?」
「何ですか?」
「その………もし宜しければ……」
 ポーチの中から愛用のブラシを取り出す。
「自分の部屋以外で寝ると緊張して髪がぼさぼさになってしまうので、その、寝る前に梳かさなければならないのですが……」
「はい」
「えっと……宜しければ……梳かして頂けないでしょうか?」
「構いません」
 二つ返事きたコレ!!!!!!!!!
 本日のミッション達成!!!!! 更に運が回ってベッドを共にというミッションができたけどとりあえずこの部屋に来た最初の目的達成だわ!!!!!!

 丁寧に丁寧に髪を梳かして下さるフロウト様。嗚呼、今わたしはフロウト様に触れられている……嗚呼幸せだわ幸せだわ。
 こうして乙女の髪を梳かして、一晩一緒かと思うときっと―――――嗚呼いけませんわフロウト様ぁ! わたしまだ12歳なのですぅ!
 あ、でもフロウト様なら……きゃー!
 いやんもううふふふふふふふふふふふふ

 恋する乙女は無敵なのよ!!!!!!


――――――――――――
 もう一話続けます。

 あの、はい。なんか、すごく面白かったですw;
 恐ろしい12歳;;;;; 父親譲りの頑固と長男遺伝の視野の狭さが;


恋に障害は付きものなのよ!!!

「では、おやすみなさい」
「お、おやすみなさいませ! フロウトの兄上様!」

 そして灯りが消される。

「…………………」

 何でベッドが別別なのかしらあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!??????
 いえここまできたら一つのベッドでしょう!
 しかも二つのベッドの間にはスタンドや空調調整付きの棚があるから距離が!!!!!
 ベッドからずり落ちるギリギリのところまで寄っても、遠い! 遠いわ!!
 腕を伸ばしても届かないじゃないの! 誰よこの部屋の家具配置したのは!!???
 しかも何が悲しいって、フロウト様が見事に私に背をむける形で眠っていらっしゃる事!
 せめて仰向けなら横顔が見えるのにいいいい!!!!!!

 はっ!

 いえ、これはフロウト様がご自分を制御していらっしゃる結果?
 仰向けや、ましてこちらに顔を向けて寝たら、花も恥じらう乙女についこうムラムラと……それを抑えるために!!!
 もうもうもうもう美しいって罪だわあああああ!!!!
 そしてフロウト様の自制心! 紳士らしさ!
 本当は同じベッドで眠りたいところをわたしに気をつかって……いやーんもうどこまでわたしのハートをわしづかみにすれば気がすむのですか素敵いいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!
 さあさあさあどうしましょうどうしましょう!
 その紳士らしさを尊重して、今夜はこのままにするか。
 それとも、胸キュン小悪魔アルダから紳士らしさをつんつんして崩してしまおうか。

「…………………………」

 今をのがしたら、次はいつになるかしら?
 全く見当もつかないわ。
 今夜をのがしたらアルダ一生後悔するかもしれないわ。
 大好きなフロウト様と同じベッドでバラ色の夢を見れるかもしれない機会をのがすなんて、馬鹿よ!
 いえしかし、アルダは馬鹿じゃなあああああい!!!!!!!

「あの……まだ起きていらっしゃいますか?」

「――――――――――ええ」

 よっしゃあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!
「あ、あ、あの……」
「何でしょう?」
「いつもと、違うお部屋だと、やっぱり慣れなくて……」
「それで?」
「ですからその……ちょっと怖いので……そちらに行ってもよろしいですか?」

「だめです」

 はい!!!!!!!?????????
「え……だめ、ですか?」
「はい。だめです」
「どうしてですか?」
「ベッドが狭くなるでしょう。もしも貴女がベッドから落ちて怪我でもしたら大変です」
 えええぇぇぇぇえええぇぇぇええ!!!???
 わたしの身を案じて下さっているぅ!!!!!!
 で、でもでもまだ引き下がるわけには!!
「え、でも、大丈夫だと思いますっ。寝ようと思えば二人は充分眠れる広さですし、わたし、寝相もわるくないですし!」
 嘘ですけど。
 でも大丈夫。フロウト様と一緒ならぴったりくっついて朝を迎えられます!
「貴女ほどの年頃だと、寝相は自然現象ですので、いつもと違うベッドで緊張するのなら尚更起こりうる事です。何かあっては困ります。今夜は我慢して下さい」
 ………さすが、隙がないわ!
「わ………わかりました」
 残念すぎる。でも、これもわたしを思いやっての事!
 でも、残念すぎる……
「そうですか。いい子ですね」
 その一言でアルダのテンションゲージMAX!
 フロウト様に褒められたあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!
「では、今度こそおやすみなさい。アルダ嬢」
「お、おやすみなさいませ!」
 大丈夫。明日の朝フロウト様よりも早く起きれば、寝顔は見られるのだわ!
 ベッドを共にするミッション失敗だけど寝顔ガン見ミッションができたのだわ!
 明日に期待して、今夜は寝ましょう!!


「―――――――――」

 ねむれない

「――――――――――」

 わくわくしてねむれない

「――――――――――――――」

 ぜんっぜんねむれないわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!




「――――――じょう」
「……ぐー」
「アルダ嬢」
「んぐー」
「今日はもう忙しくなるようですよ。起きて下さい」
「むぅ……あとごふん」
「五分前にもそう言いました。なので起きて下さい」
「ふみゅぅ………んー」
「アルダ嬢」
「んー…………え………あああぁあ!!!!」

 し・ま・っ・た!!!!!!

 隣に立つフロウト様は、寝顔どころかバッチリ顔も洗って着替えもして更にモーニングコーヒーまで淹れていた。
 アルダのばかあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「おはようございます」
「お、おはようございますっ!」
「よく眠っていましたね」
「そ、そうですか!?」
「ええ。やはり何度かベッドからずり落ちていらっしゃったので、直させて頂きましたが」
「!!!!!!!」
 ……いつもは囲いのあるベッドだけど、無いし。しかもギリギリ端に寄っていたし。
 恥ずかしいわあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!
「ごごごごめんなさい!」
「いいえ。健やかにご成長なさっているようで、問題ありません」
「あぁあああ有難うございますぅ!」
「とりあえず、顔を洗ってきたらどうですか?」


 恋に障害はつきものなのよぉぉぉぉ!!!!!


―――――――――――――
 因みにワクワクして眠れないから、夜のうちに寝顔を見る、という選択肢は、朝に寝顔を見る!と脳内完全シフトされて、全く思いつかなかったらしいです。だっていくら暴走してても所詮12歳だし;
 この後暫くしてから、寝てる間に抱き上げられたかもしれないいやむしろ抱きしめられたりしたかもしれないいいいいいい!と別方向の妄想にどっぷり入ります



土星周辺の設定小話は以上です。
次からは、他キャラの小話いきます