悪戯心


「――暇」
「…………」
「ひーまー」
「…………………」
「ひーまーだー暇暇暇暇ー!」
「うるっせぇんだよてめぇ!!!!」
 読んでいた本をアテムの顔に叩きつけながら、数分ぶりに言葉を発した。
「痛いな。何すんだよ」
「バカが。バイト先の説明書読むから邪魔すんなっつっただろ!!」
「俺が来たからには諦めろよ」
「―――はいはい。記憶戻ろうが闘いが終わろうが高校卒業しようがその王様っぷりは変わらない訳ね」
 酷く重く長い溜息を吐くバクラを、アテムはそりゃそうだろ何か文句あるのか的な顔で見返す。
 了も遊戯も大学に行っている昼間。突然電話がかかってきたと思えば、

 『20分後に着くから用意しておけ』

 というこちらの都合など全くお構いなしの一言を残して一方的に切られた。そしてきっちり20分後やってきたアテムを放置して、ソファーでバイト先の勉強をしていたらこの通りだ。
「折角来た恋人に向かってその態度はないだろう」
「こっちの都合も聞かねぇで勝手に来といて何言ってやがる!! 俺が俺の家で勉強して何が悪いよ!?」
 落ちた本を拾い、アテムの顔を見ずに言葉をまくし立てる。更に唯我独尊な言葉を吐き続けるアテムを無視し、ソファーに座り直してページを捲った。最近増やしたバイト先の物で、これは資材整理の仕事だ。物品の名称と指定の位置を覚えておかないと現場で困る。なので、中々に重要な勉強なのだが――

「ひああっ!」

 突然耳に舌が這わされて集中力が粉砕された。
「口で言っても聞かないから体でやってみたぜ」
「アホかこの変態!!」
「でだ、バクラ」
「話聞けよコラ」
「ヤらせろ!」
「結局それかよ淫乱王ーーーー!!!」
 押し倒しにかかってきたアテムの鳩尾に思い切りひざ蹴りをくらわせたら、悶絶した。これで暫くは勉強できそうだ。

「――――殺す気か?」
「まさか。殺しても死ななかったくせに」
「そりゃお互い様」
「まーな」

 さすがに効いたようで、少し大人しくなったアテム。
 この相手と、三千年前から血生臭い殺し合いをしてきたと、今思うと遠い日の出来事のように感じる。しかし実際にはほんの二年前なのだ。結局何もかも元通りで、全員無事に生き伸びたためにこの生活があるが、当時はまさかこんな事になるとは思ってもみなかった。
 闘いの先にあるのは、どちらかの死体だと。
 昔、アテムはバクラに言った事があった。

 『お前を殺して、俺もすぐ逝ってやるよ……』

 その申し出は、熱い涙が流れる程嬉しかった。だが解っていたのだ。実際には有り得ないのだと。王の魂の名をもって神は束ねられる。自分を殺してそのまますぐに彼も、など――有り得ない事だと、解っていた。ただあの時はそう言ってくれた気持ちがとても嬉しかったから、それだけで充分だったのだ。
 結局紆余曲折あって、心中どころか二人共生きてしまったのだが。
 なんとも、平和な時代で余命を送る事になったものだ。
「――――平和だよな」
 こちらの思考に合った言葉を吐かれて少しぎょっとしたが、バクラもただ、そうだな、と返す。
「生ぬるいとか思ってるか?」
「――否定はしねぇな。そればっかでもないけどさ」
「ほぅ、例えば?」
「夕方の値下げ開始と同時のスーパーでの闘いは必死だ」
「ああ解ったそれは大変だな」
 それからまたしばし、無音の時間が流れる。バクラはただテキストの暗記と理解に必死で、今さらアテムに構わない。アテムもやっと納得したのか、静かに雑誌を捲っていた。それから何か思い出したように立ち上がり、珈琲を淹れて持ってきた。勝手知ったる台所。
「飲むか?」
「気がきくじゃん。悪いねぇ王様に珈琲淹れさせて」
「心して飲むが良い。余は満足じゃ」
「うざっ」
 軽く冗談を交わして珈琲を口に運ぶ。芳醇な香りと、甘党のバクラを思ってか多めにいれられた砂糖の甘みで頬が緩んだ。
「休憩にするか?」
「んー……そうだな。そろそろいいか」
 先程の暴挙はこの珈琲に免じて許してやろう、とテキストを閉じる。窓の外の空は、良い天気だ。
「ていうかさ、いきなり来ておいて土産も無しかよ」
 珈琲を飲みながら、軽く睨みを利かせるが、アテムはそんなこと意にも介さず、
「仕方ないだろ。何より早く会いたかったんだ文句言うな」
「……さらりと恥ずかしい事言ってんじゃねぇよ」
 よく解らない、溜め息が出た。
 軽い会話。たまに出る笑み。珈琲の香りと甘い味。
 こんな平穏、少し勿体なさすぎやしないだろうか。これでもまごうことなき極悪人の犯罪者だし、これまで何十人――いや、何百人殺したかも解らない。村が滅ぼされた時から、殺らなければ殺られる畜生の道を這い進んで、気がつけば自分は立派な化け物だ。“盗賊王バクラ”の名が世に知れ渡る程に――
 そして今は、そもそもの元凶であるクル・エルナ殲滅をしかけた王族の者と一緒に居る。何という運命の巡りあわせだろう。笑うしかない。しかも互いに――本気で愛してしまったんだから、尚更。
「という事で、バクラ、リラックスしようぜ」
「何が『という事で』だよ。もうリラックスしてます間に合ってますそれ以上言うな変態」
「俺まだ何も言っていない」
 腕を組んで真正面から見据えてくるアテムに、バクラは心底うんざりした顔で、
「―――何?」
 一応、聞いてみた。
「バクラを抱きたい」
 そして、予想通りの返答がきた。
「今日は嫌だ」
「そう言わずに」
「邪魔すんな」
「……というか……」
「あ?」

「そろそろ――効いてくると思うんだが?」

 そう、とてつもなく嫌な予感がする笑みを向けてきた。
「………………何が?」
「俺が持ってきた土産」
 途端に、さぁっと血の気がひいていく。
「………無かったんじゃ?」
 嫌な予感しかしない。それもかなり危険な。
「『無い』とは一言も言ってないぜ?」
 にやり、と口角を上げるアテム。そしてその直後、ドクン、と体が熱く脈打った。
「――――――――――っ…………マジ………かよ………何しやがった」
 徐々に上がっていく体温。荒くなる呼吸。そして這いあがってくるような、疼き。
「………KCで面白いのが売ってたからさ、ちょっと“遊んで”みただけだぜ?」
 そっと首筋を撫でられて、
「あっ!」
 バクラの意志など無視して、体が跳ねた。
「へぇ。ちゃんと効くもんだな。媚薬」
「………こ……の」
「なぁ、バクラ、欲しくないか?」
 耳元に囁きかけられ、赤い顔で身を捩る。
 何て事をしてくれたのだこの鬼畜王。
「平和で生ぬるい感じもあったんだろ? だったら、たまにはこういうのも――なぁ?」
 一発殴るくらいでは済まさない、と胸中で拳を握るバクラだった。

                 


「っあ!――ぅんっ」
「……すげぇな……いつもより更に感度いい」
「こ、の……あああ!」
 ただ触れられるだけの愛撫に体は普段より敏感に反応する。霞む理性で抵抗しても、軽くいなされてしまう。ああ、これは長くは保たないな、と自分でも解った。もうすぐにでも、快楽に何もかも委ねてしまいたい状態だ。
「ひあっ!」
 首筋に舌が這わされ、そのまま舐め上げられる。同時に指先で胸の突起を転がすように刺激されて、上昇する体温は留まるところを知らない。
「……いいな。たまにはこういうのも」
 愉しげな笑みを浮かべるアテムに答える余裕もなく、ただ愛撫に反応して甘く喘ぎを漏らす。 つぅ、と太ももの内側を指で撫でられ、疼きがこみ上げる。先程からずっと焦らすばかりで、彼は肝心のところには一切触れてくれない。
「あてむ……っ」
「ん?」
 余裕に満ちた笑みでただ愛撫を続ける彼を、バクラは薬に理性を呑まれながらも必死に睨み付けた。
「……ふっ、可愛いなバクラ。どうしてほしい?」
「っ!」
「言えるだろ? なぁ?」
 優しげな声音で耳元に囁く。触れた吐息で体を震わせながら、もう限界まで疼きに蝕まれた瞳で彼を見つめ、

「―――――イか……せて……!」

「よく言えました」
 硬く、とろとろと先走りを零すそこに手を伸ばし、激しくしごかれて高く啼いた。
「ふっ」
「ああああ!あっ……あて……ひやあ!!」
「いい声だな」
「あ! ……ぅあ! あああー!!!」
 既に限界だった彼は、すぐにアテムの手の中に精液を吐き出した。
「はぁーっ、はぁーっ、はぁっ、はぁー」
 胸を上下させて荒い呼吸を繰り返すバクラを愉しそうに見つめ、アテムは手の中の精液を彼の入り口に塗り込む。
「ひっ」
「こっちも、欲しいよな?」
「あ!」
 指が中に潜り込んで、熱い内部を掻き回した。強い快感が駆け上がる。
「やあああ!」
「嫌じゃない、だろ? ほら」
 熟知したバクラの弱いところを責め立てる。シーツにプラチナの髪を散らし、紅潮した体で淫らに喘いだ。
「バクラ、次はどうしてほしい?」
「あっ……そ……」
「ここで止めるか?」
「っ!」
 体は疼いて仕方ないだろう。折角薬が入っているし、この機会に普段絶対言わない事を言わせよう。
「なぁ、どうしてほしい? 言えるだろ?」
「あてむ……っ」
「ほら、バクラ?」
 薬が覚めた後が少し怖いが、今はこっちのものだ。
「も……挿れてぇ」
 本当に辛そうに訴えたバクラに微笑み、アテムも既に限界だった自身を彼の中に潜り込ませた。

「ああああーっあっ! ひぃっ!」
「はぁっ」
「んっ、あて、む……もっと……!」
「いいぜ。やっと素直になってきたな」
 荒く突きいれたが、薬で蕩けたバクラの体は抵抗なくアテムを受け入れ、絡みついた。既に理性は薬に呑まれ、羞恥など投げ出して快楽に溺れている。KC、なかなか良い物を扱っているな、と胸中で感心した。
 深く唇を重ね、甘く熱く舌を絡めながら激しく動く。
 仰け反り、喘ぎ、更に求めるようにアテムの背に腕を回す彼。薬の力を借りるのも、たまにはいいものだ、と思った。
「あん! あっひぃああああ―――っ」
「バクラ……愛してるぜ」

 “平和な日常”の中の、ちょっとしたアクシデント、だろう?


END

あの、えーと、えーと………
昧依様から、30000HITキリリク頂きました有難うございます。「全員が無事だったら・・・続編Part2」という事で……
えーと
えーと
えーーーーーと………

ごめんなさい!!!!!!!!!!!!!!(ΩДΩ)

謝罪すべき項目が多すぎるんですがとりあえずまず最初に時間かかりまくってごめんなさい!!!!
10ヵ月もお待たせしてごめんなさいネタが全く浮かびませんでしたごめんなさい!!!!!

そしてお待たせした挙句がコレでごめんなさい何これ;;;;;;;;;;;;;;;;;;

あの、甘いらぶらぶー……を目指してみようとして……ネタが浮かばないから……いいやもう強引に書いてしまえとやってみたら……なんか本当に「山なしオチなし意味なし」状態になりまして……あれ、そういえば媚薬ネタ大好きなのにサイトに出してる小説ではまだやった事なかったなとか魔が差して……でも細かく書く余裕皆無でやってたら、なんか、こんな……こんな………………;;;;;;;;;;;;;;;;;;;

本当にごめんなさい石投げていいです空き缶投げていいですごめんなさい!!!!!!!!!!;;;;;;;;;;;;

字の文少ない。情景描写少ない。裏描写ショボい。
本当、ごめんなさい;;;;;;;;;;
脱兎。