大掃除


「…やっぱり…けっこー埃有るねー」
「だな。でも、まあ少ない方じゃねーか?」
 時は年末。
 アパートに1人暮らししている獏良了は、千年リングに宿りし魂、バクラと供に大掃除をしていた。
 普段から清潔にしている獏良の自宅は、他の家に比べれば埃は少ない。が――
「また出てきたぞ」
 そう言って、バクラは引っぱり出してきたダンボールを開けた。
 中に入っているのは、色とりどりの大量のスプレー缶だった。
「あぁ…ハハハ…」
 それを見て、獏良は力のない笑いを浮かべ、バクラはそんな獏良に冷やかな視線を送る。
「…あのさ、一つ聞いていいか?」
 腰に手を当てて軽く息を吐くバクラに、獏良は苦笑いしたまま頷く。
「お前せっかく稼いだバイト代全部モンスター・ワールドに注ぎ込んでんじゃねーだろーな!!」
「ぜっ…全部じゃ…ないよ」
 眉を吊り上げて怒鳴るバクラに、獏良は目をそらしながら控えめに呟く。
「じゃあ、どの位だよ?」
 目を細めて訊ねるバクラ。獏良は、少し苦い顔をして、
「半分位」
「馬鹿!!」
 今度は本気で怒鳴られた。
「たった半分の金でどうやって家計守る気だよ!!何でたった1年で空き缶やらのダンボールが五・六箱も出てくんだ!!その分食費やら水道代やらガス代やらに回せばどんだけ生活が楽になったと思ってんだ!!少なくとも食事が米と梅干しだけの生活が何週間も続く事はなかったぞ!!」
 そう言葉をまくし立てて床を強く叩くバクラに、獏良はビクリと肩を上げる。
 もはやどちらが主人格なのか分らない。
「ごめんなさい」
 すっかり暗い陰を下として謝る獏良に、バクラはまた溜め息をつく。
「あ〜あ〜また来年も同じ事が起きねーようにいっそモンスター・ワールドごと捨てちまうかな〜」
「ええええ!!!」
「嘘だよ」
 身を乗り出す獏良に、バクラはあっさりとそう言う。
「けど、もし来年もこうなったらマジで捨てるからな!」
 安堵した獏良はその一言でたちまち緊張した。
「…ハイ」
 苦い顔をして頷く獏良に、バクラは小さく鼻を鳴らす。
 そんな部屋の中を、冷たい風が吹き抜ける。
 ふと、獏良が顔を上げた。
「ねぇ…バクラ君…」
「あ?」
 その呼び掛けにバクラも顔を上げる。
「じゃあ……来年の暮れになっても、僕達は一緒に暮らしていられる?」
 その問いに、バクラは一瞬瞳を見開いた。そして、すぐにクスッと笑い、
「馬ー鹿。言ったろ?お前は永遠の宿主だって」
 そう言ってにっこりと微笑んだ。
 それを見て、獏良も満面も笑みを浮かべた。
 部屋にある時計が三時を討った。
「さーて…」
 ズボンに付いた埃を払いながら立ち上がったバクラは、軽く息を吐くと、
「三時になった事だし、そろそろ休憩にするか」
 獏良に向かってそう笑い掛けた。
「!!うん!!!」
 応えて、獏良もピョンと立ち上がる。
「よし!じゃあ僕シュークリーム買ってくるねー!!」
 笑顔でそう言うと上着と財布を掴みパタパタと玄関へ出て行った。
 そんな獏良を見送った後、バクラは、ポツリと呟いた。

「あの財布…十円しか入ってねーのに…どーすんだ……?」


  END